親不孝伝

欲しい欲しいの 児じゃないが
飯盛り女の お母ァが
逢いたがってる 泣いてると
きけばやっぱり 辛くなる
生まれ越後は 捨てた越後は 親不知

「にいさん 盥(たらい)渡しって知ってるかい
産湯を使う盥のことだが
その盥の儘 里子に出されたのが俺だァ
親の味も情も知らねェ
だがね 人の道は知ってるよ
誰が教えてくれたのか? お天道さまだよ
お天道さまだけは俺を見捨てたことがなかったよ」

親のあと追う 雁みれば
やり方 仕方は知らないが
見よう見真似の親孝行
一度 誰かにしたくなる
夢の越後は 雪の越後は 親不知

「おい! そこの お前だよ
親を泣かすんじゃねェ
さあ手をひいてやんな おぶってやんなよ
お前さん 若いね
俺にも親いるけど いつだって
有難くて手を合わしているよ
俺の親はな お天道さまなんだよ」

里の童(わらべ)の子守唄
きく度 募るよ いとしさが
噂ひろって尋ねたら
無縁仏に彼岸花
遠い越後は 風の越後は 親不知
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