奇跡cinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 細長い坂を駆けた。重ね着のコートを脱いで駆け抜けた。 夕暮れの帰り道で、独り言をつぶやいている。 君のいない街に初めての季節。 伝え損ねたこと、もう覚えていないや。 茜色に染まるから、今日も明日もその思い出も。 奇跡はいらない。荷物になっちまうでしょう。 気づいていた、僕のこころが 新しい何かを求めはじめていることを。 夜の匂いに変わったら、進む支度をはじめよう。 奇跡はいらない。踏み出せなくなるでしょう。 そういえば、君が泣くのを見たことなかったな。 そんなこと考えてたら、そりゃ日も暮れるよな。 よそ見してけつまずいても、今さらだ。振り向くことなかれ! 茜色に染まったら、次の言葉をみつけよう。 奇跡は起きない。理由がないからね。 茜色に染まるから、今日も明日もその思い出も。 奇跡はいらない。荷物になっちまうでしょう。 |
WARPcinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 高速道路沿いに広がる街にはもう用が無くなった。 ガスのにおいにも飽きた。 君はすこし華奢な身体で、僕の声にうなずいていた。 それなら、これから起こるドラマを車の鍵に託して、 このまま知らない国へ行こう。 誰にもばれないうちに行こう。 仕掛けるタイミングを密かに図ってる。 物音ひとつ立てず、今かと狙ってる。 どうしましょ、と囁く君が闇の中で怪しく笑う。おおいに結構! 12時の鐘を合図に車に飛び乗ったなら、 このまま知らない国へ行こう。 なおさら速度は上げていけ。 繋がることの無かった手と手を重ね合わせて、 このまま知らない国へ行こう。 誰にもばれないうちに行こう。 このままふたりの国へ行こう。 それなら速度は最高で、僕と行こう。 |
さよなら、メルツcinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 目隠しをされたまま、どこに行くのかと訪ねようと返事はない。 目隠しを外されて、その重い口を割って言った。 この世の終わりと。白い笑みを浮かべ。 そこには何もなかった、闇以外は。 もう僕は二度と嘘をつけない。舌を抜かれちまったこの喉では。 もう僕は二度とたどり着けない。あなたのもとへは。 彼は言った。過去などいらない。形がないのにどうしてさ? 罪を重ねた僕は、その先に夢をみる。 そこには何もなかった気がしていた。 闇に慣れた目でいま見つめよう。 もう僕は二度と海に行けない。きつく縛られちゃったこの脚では。 もう僕は二度とたどり着けない。あなたのもとへは。 僕らの最後の言葉。 「おはよう、そしてさよなら、かもめよ。また会えるといいね」 |
her methodcinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 古いタイプライターの音が響いた。 雑に脱いだカーディガンに染み付く煙草の ニコチンも銘柄も分からないふりをして。 寒くなる部屋の中、ラジオの音。 知らない、知らないの。 彼女の方法論を聴いた。 「後悔なんて意味のないことで、単細胞が生き残っていく、 そんなもんさ」と笑っていたんだ。 黒いサイドワインダーの模型を手にして 血みたいなワインを飲み続けている。 「くだらない」つぶやいて、同じことを繰り返す。 朝も無い、昼も無い、夜も無いし、いらないの。 彼女の人生観を聴いた。 「懺悔なんて意味のないことって何万回と偉人達が言ってた、 そんなもんさ」と笑っていたんだ。 言っていたんだ…。 |
warszawacinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | ワルシャワの牢獄を抜けたら、たいまつの火を消して、 ゆっくりと目を開けたのにまだ迷いの森の中だった。 僕らは悪夢を見ていたみたいに汗をかいて、 大蛇の怪物を手なずけた老人と共に歩くよ。 つないだ手が白く冷たくなった。 いま彼女は目を細め、笑ったのさ。 傘もさせないままで、いけにえの祭壇へ。 教祖はもう黙っていられない様子でさ、 呪文を唱えだした。 明日はわが身の僕らは誰も彼女を救えない。 いま彼女は目を伏せて「生きたい」という。 雨はやまないままで、いけにえの祭壇へ。 |
小説家cinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 故郷には雪がちらついていると聞いた。 僕はと言えばまだ暗い部屋の中。 筆を止める、は迷いか否か。いつかの幻のせいか。 情けないとも分かっちゃいるが、 身体は眠ったまま動かない。動きたい、動けない。 最終形を無くしたストーリー。 そんなものが見たい奴は当然いないな。 故郷に積もった雪はすぐ溶けたらしい。 僕はと言えばもう覚悟をきめて、捨てること、残すことを考えていた。 最終形を望んだ向こうにかなしみが残ってもしょうがないな。 完成形を目指したストーリー。 拾い集めた原稿と汚れたこの手で。 最終形を無くしたストーリー。 そんなものが見たい奴は当然いないな。 完成形をめざしたストーリー。 雪がほんの少し積もる街の話。 |
salvage mecinema staff | cinema staff | 三島想平 | cinema staff | cinema staff | 音の無い静かな公園で、僕は少し考え事をしている。 家に帰る道を急がないのは、夜が来ることを恐れた人。 珍しく晴れた梅雨の空だ。 青色のブランコに座って晩御飯を待っているのは、子供の手を握る人。 花壇には大きなあじさいと、その合間、縫って生える雑草。 うつむいたまま煙草を吸う人。紛れもない僕のこと。 日が落ちる。 映画みたいに輝いた夕焼けに身を任せて、このまま溶けてしまいたいよ。 許すこと、許すべきでないこと。焦ること、焦らなくていいこと。 その全てはどうでもいいこと。早く捨ててしまおうか。 顔を上げる。 映画みたいに輝いた夕焼けが目に染みたって、夕焼けに責められたって、 夕焼けに身を任せて、このまま溶けてしまいたいよ。 点と線と面が産まれていく。それはとても綺麗で素敵だね。 日が落ちる。 映画みたいに輝いた夕焼けに身を任せて。 顔を上げる。 映画みたいに輝いた夕焼けが目に染みたって、夕焼けに責められたって、 夕焼けに身を任せて、このまま溶けてしまいたいよ。 |