―― 以前、苑子さんに単独インタビューをしたのはシングル『エール』がリリースされた2016年で19歳の頃ですが、あれからもう2~3年経っていると思うと早いですね。
そうですね。今21歳で、今年の誕生日で22歳になるんですけど、10代の頃からいろんなことがかなり変わりました。なんかあんまり…私って人を信じられてないのかもと思ったりします(笑)。
―― 何がありました…!?
いや、とくに大きな出来事があったわけではないんですよ!でも最近すごく思うんですよね。弱みは見せられるんですけど、根っこから信じられているわけじゃないんだなって。全人類に対してそうなんです(笑)。そういうふうに自分って生きているんだと思うと、ちょっと悲しいなぁ…って、昨日まさに考えていたところで。
―― どうしてそう思うようになってきたのでしょう。
うーん。日常生活で思うところがちょこちょこあって。たとえば、友だちと喋っていて、誰かがお仕事の愚痴を吐いたとします。それって全然、友だち同士のなかでのことなので良いと思うじゃないですか。でも別の子にとっては、すごくマイナスだったりして。そういうのを客観的に見て「え、じゃあ誰に不安なこととか言えばいいんだろう」って思ったり。誰にも言えないじゃん!って。
私は悩んだりしたら普通に友だちにも言うんですけど、たまにちょっと自分の悪いところが出たりするじゃないですか。毒を吐くみたいな。でもそれも「言われたほうはどう感じるのかな?」とか「“私に言われてもどうしたらいいの?”って思われちゃうかな?」とか考えるようになって。あんまりこう…自己判断でなんでもかんでも話しちゃいけないんじゃないかと。そんなことを考えている時期です。
―― 10代の頃は、とにかくガーッと夢に向かってやってきたからこそ、その夢のなかで仕事をしている今、冷静に考える機会が増えたのでしょうかね。
あー、そうかも。そうですね。人として考える時間が増えました。本当に10代の頃って、音楽のこと以外はほぼ何にも考えてなかったんですよ。人間関係も自分の思うがままにやっていたので(笑)。それが最近になって、かなり遅いかもしれないですけど、自分の内面とか誰かの気持ちとか他者への接し方、みたいなことを考えるようになって。価値観も変わってきたように思います。その辺は今回のアルバムにもちょっと反映されているんじゃないかな。
―― ちなみに苑子さんは、幼い頃からずっと歌い続けてきて、小学生の頃にはライブまでしていたわけですが、歌ってない自分の未来という選択肢ってちょっとでもありましたか?
いやぁ…なかったですね。子どもの頃からずーっと心のなかで歌手になるというのは決めていたんです。なりたいというか、なるんだなって。保育士さんにも興味はあるなぁ~とか思ったことは多少ありましたけど。でも結局たどり着くのは音楽だったんじゃないかなって思います。多分、他の選択肢はありませんでした。今それこそ周りは就活生ばかりなんですけど、私自身が「この仕事に就いてなかったら…」とか考えたことはないかもしれないです。
ただ、さっきの話じゃないですけど、就職活動をしている友だちを見て感じることはいろいろあって。第一志望だったところに落ちてしまって、次は全然違うジャンルだけど興味があるところを受けようとしている子とかもいるんですね。そうするとなんか、誰かが「合格です」「不合格です」って決めたその選択で、一人の人生が大きく変わるんだなぁって思って。私がなんて声をかけたらいいのかわからなくて。だからちょっとでも別のところで発散してもらえるように「とりあえず美味しいもの食べよう!」って、私はいつも美味しいお店を探しています(笑)。
―― 今、最近の“人として”の葛藤はいろいろお伺いしましたが、音楽の面で「もうやだ!」って感じたり、曲のスランプ期に陥ったりしたことはありますか?
意外と「もうやだ!」はないですね。でも曲作りのスランプは常にあります(笑)。歌詞が毎回わりと行き詰まるんですよ。タイアップの曲だとテーマがあるじゃないですか。それに沿って自分があまり深掘り出来ないときに、かなり模索しますね。また1から考え直したりとか、まったく違う視点からみるようにしてみたりとか、そうやって最終的にはなんとか抜け出すんですけど。
―― 今回の歌詞を読んでいて、年齢的に使えるワードが増えてきたところはあるのかなと感じました。たとえば“お酒”とか。
あ、お酒はたくさん使いました(笑)!とくに最後の「わっしょしょいしょい」とか。あと「キミマミレ」の<また飲み仲間の家で タコヤキパーティーですか?>もそうですね。そこは一度、迷ったんですよ。ダメかなぁ?って。これまでの井上苑子のイメージ的に(笑)。でも正直、自分が10代のときに音楽を聴いていて、歌詞にお酒が出てきたからって「じゃあ私も飲もう!」なんて思わなかったから。私ももう21歳だし、自分の日常で当たり前になっていることなら、良いんじゃないかなと入れましたね。
―― 結構、お飲みになられますか?
はい!でも最近よくその話をするので、おばあちゃんにすごく怒られたんですよねぇ。なんか「あんた若い子がそんなにお酒の話をするんじゃないよ!おばあちゃんは全然良いと思わんわ!」みたいな(笑)。それで私は「ちゃうねんで。井上苑子を覚えてもらうためにも包み隠さず言うねんで!」って返したら「知らんけど!気をつけや!」って言われて(笑)。まぁ飲みますね。焼酎と日本酒が好きです。
―― おぉ…!意外です…!
食べることが好きなので、甘いお酒だと合わないなって、飲むようになって最初から感じていまして。ジュースでさえあんまり飲まないので。だけどスタッフさんやバンドのメンバーさんと飲んでいると、みなさん焼酎とか日本酒とか結構お好きで。それで一緒に飲むようになって目覚めました(笑)。ただ、アーティストさんの飲み仲間って私まったくいなくて、そこはちょっと寂しいですね。中学や高校の頃の友達とばっかり飲んでいます。
―― 使えるワードが増えた以外にも、歌詞面での変化ってありますか?
結構あります。今までは感情をすぐ言葉にしていたというか。ただ伝えたいことだけを書いた、飾りのない丸裸な歌詞だったんですよ。だからこそ、等身大とか言っていただけていたんですけど。でも今は、いろんなものをまといたいなと思っているんです。曲の核を決めたら、その周りの物語とか、言葉選びをもっと丁寧に描いていきたいなって。きっとそんなことアーティストのみなさんはもっと前からやっているんだろうけど、私は本当にわかっていなくて。最近になってようやくそういう作詞法に変わってきましたね。