あの日と同じ、予報外れの雨。

足立佳奈
あの日と同じ、予報外れの雨。
2023年9月23日に“足立佳奈”が新曲「この雨がやんだら」をリリースしました。同曲は、9月22日から放送開始のWOWOW連続ドラマW-30『アオハライド Season1』主題歌となっております。さらに、[ADACHI KANA Acoustic Tour "23-24"]を10月に開催することも決定。新アーティスト写真も公開となり、新たなフェーズへと向かう足立佳奈を表現した写真に。 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“足立佳奈”による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「この雨がやんだら」にまつわるお話です。この歌の裏側には、一体どんな物語が息づいているのでしょうか。歌詞と併せて、<私>の揺れ動く感情と見つめる景色をお楽しみください。 チャイムがなった。 私たちと割と年齢の近いポロシャツの似合う先生が、 次の小テストの範囲を告げて教室を去った。 クーラーが壊れていて、扇風機が4台部屋を囲むように設置してある。 あつい。 黒板を消される前にノートに写さないと。 いつもこの調子だ。 授業はまともに受けているつもりだけど、 歴史上の人物の名前がなかなかの長さのカタカナだったり、 同じような漢字だったりで私だって大変なのだ。 急いで次の授業に向かう。 移動教室が1番苦手、仲の良さが目に見えてわかるから。 私は1匹狼になんてなれない。 嫌われないように、みんなに合わせて、 なんとかうまく輪に入れてもらって廊下を歩く。 そんな私はクラスメイトに恋をしている。 自分とはまるでタイプが違う。 少し前に、放課後に資料をまとめてて、 いつもより2時間も帰るのが遅くなった日、 帰りのバスを待ってたらそこにふと彼が現れた。 気にもとめてなかったけど、そんな時、急に雨が降ってきた。 バス停の屋根の下で2人。 雨のいたずら。 その日から少しずつ話すようになって、自然と意識するようになった。 彼もきっとそう。 移動教室の時、廊下で彼が何となく私の半径2mのところにいたり、 教室で何度も目があったり、 放課後同じバスで帰ったり。 そして2学期が始まった。 お昼時間になり、クラスに嫌な空気を感じた。 成績は決して良いとは言えないけど、 笑顔も声もキュートで物腰の柔らかい彼女に目が止まった。 いつもの女子グループに入らず、1人でお弁当を食べている。 誰も彼女と話そうとしない。 私はすぐに分かった。 こういう時は知らん顔する方が賢明だ。 いつも嫌われないように輪の中に入れてもらっている私が、 今ここで彼女に話しかけたりなんかしたら… 私の学校生活に支障が出るに違いない。 でもこんな空気は気分が悪い。耐えられない。 「一緒にたべよ。」 私はほんの小さな勇気をふりしぼって声をかけていた。 それからは、分かってたけど、 移動教室の時一緒に歩いてくれた友達は、 私を輪の中にいれてくれなくなった。 おはようもバイバイも返事がなくなった。 どうしていいか分からなくて、 誰もいない帰りのバス停で1人になると、 私の心の中だけ雨が降ってるみたいだった。 でも頑張った私。 彼女は私の言葉で少し笑顔になってくれたから。 やっほ。 聞き覚えてのある声がして、 急いで顔をつくる。 ドラマのワンシーンみたいな彼の登場が、 よく考えたら出来すぎててなんかちょっと笑えた。 彼なりの気遣いだったのかもしれない。 今の私には嬉しかった。 ぽつぽつ あの日と同じ、予報外れの雨。 彼と目が合って思わず笑った。 自然と2人は手を繋いでいた。 もう何本バスを乗らずに見送っただろう。 あと少しだけ。 今ならこの気持ちを言葉にできるかもしれない。 ちゃんと伝えよう。 この雨がやんだら。 < 足立佳奈>