2025年7月2日に“Dannie May”が新曲「ユニーク」をリリースしました。原作シリーズ累計90万部超えのTVアニメ『追放者食堂へようこそ!』のために書き下ろされた同曲。どうしようもない悩みを抱える人々への“肯定”を心地よいビートに乗せるDannie Mayからの愛で溢れた応援ソングとなっております。
さて、今日のうたではそんな“Dannie May”のマサ(Vo&Gt)による歌詞エッセイを2カ月連続でお届け。第2弾は、昨年リリースされたアルバム『Magic Shower』収録曲「ゲッショク」にまつわるお話です。トクベツな8月16日を過ごすことになった16歳の<僕>の物語を、歌詞と併せてお楽しみください。
◆紹介曲「ゲッショク」
作詞:マサ
作曲:マサ
八月中旬の四ツ谷駅にて。午前11時を少し前に僕はこれまでの16年の人生には数えられないビッグイベントを迎え入れるために、とある待ち合わせをしていた。
普段学生としても、16歳男子いち個体としても特別何か取り柄があるわけでは無い僕がなぜこんなにも緊張しているかというと、本日8/16が僕の愛するバンドの初武道館ワンマンライブであり、かつそのライブに我が校の高嶺の花の女の子と連番することになったからである。
正直意味が分からない。いや、意味が分からないことは無いのだが、未だうまく受け入れられていない。
確かに、僕があのバンドを聴いていた時のスマホに映ったジャケットに彼女が気づいて、かつて無いほど盛り上がりはした。「ライブ今度行きたいねー!」なんて言ってくれてもいた。ただ、それは同じ趣味の人間を見つけた時のよく出来た社交辞令だと思っていたし、ある日二枚綴りのチケットを渡された時は困惑する他無かった。
そしてあれよあれよと時は過ぎ、半ば放心しながら受け取ったチケットの日付がとうとう今日なのであった。
35度を平気で超えるようになった東京の夏。今日は一段と暑いはずなのに暑さの輪郭もよくわからない。今なら蝉より高く飛べそうな気すらする。
「どんな話をしよう?」
「そもそもこんな早くから集まってどうしよう?」
「今日僕は正常にライブ楽しめるんだろうか?」
色々な考えが頭をよぎる。緊張を少しでも和らげようと、今日観に行くバンドの1番のお気に入りアルバムを聴き直す。
全然耳に入ってこない。なんだこれ。
僕のスーパースターも今日だけは助けてくれないようだった。
心配と高揚がないまぜになったまま駅前の景色を睨みつける。そんな僕の緊張をよそに待ち合わせの11時ぴったり、彼女は現れた。
「眩しい。眩しいですとても。」見慣れない私服姿を前に出かかったキモ認定不可避なセリフを必死に飲み込んで一緒歩き出す。
何から話したら良いか分からない。「良い天気ですね。」なんて言おうものなら笑われるのは分かっていても、「良い天気ですね。」しか僕の絶望的なコミュニケーションの引き出しからは出てこない。
上手く話せずに流しっぱなしだった音楽を止めようとスマホを触っていると
「またおんなじだね!」
彼女はスマホの画面を見せてきた。
幾度となく見たアルバムのジャケットの画面を見せながらはにかむ。
夏が蝕んでく。
夏が蝕んでく。
<Dannie May・マサ>
◆紹介曲「ゲッショク」
作詞:マサ
作曲:マサ