次はどんな景色を、どんな衝動を描けるだろう。

 2025年12月10日に“22/7”が3rdアルバム『ABC予想』をリリースしました。彼女たちは、秋元康の総合プロデュースによるデジタル声優アイドルプロジェクトです。今作には、3作連続アニメタイアップ主題歌となった、13th single「YESとNOの間に」、14th single「ロックは死なない」、5th single「あなたでなくちゃ」を含む全12曲を贅沢に収録。
 
 さて、今日のうたでは、そんな“22/7”の歌詞エッセイを4日連続でお届け。最終回は、収録曲「春雷の頃」「後でわかること」「理論物理学的 僕の推論」にまつわるお話です。10曲目「春雷の頃」は、作曲者のYU-JINによるライナーノーツを。11曲目「後でわかること」は、作曲者の高木龍一のライナーノーツを。そして12曲目「理論物理学的 僕の推論」は、作曲者の湊谷陸によるライナーノーツをお届けします。ぜひ、歌詞とあわせてお楽しみください!



10.「春雷の頃」

22/7さんに楽曲提供を始めてから、いつの間にか彼女たちは自分にとって“特別な存在”になっていました。制作のたびにワクワクして、気づけばノリノリで曲を作っている。心のどこかで「好きになっていた」んだと思います。
 
「春雷の頃」は、そんな22/7との関係性が自然と音にあらわれた楽曲でした。
サウンドの中心に据えたのはブラス。
華やかさと切なさを同時に持つ、あの独特の空気。そこに心地よいグルーヴを重ねて、爽やかさとドラマ性が同居するように組み上げていきました。
 
22/7の歌声は、とてもまっすぐで、同時に繊細です。
だからこそ、音を詰め込むのではなく、声を“包む・支える”方向に舵を切りました。軽やかなブラスのフレーズが風のように広がり、そこへ彼女たちの声が乗る瞬間。スタジオで最初に聴いた時、思わず胸が熱くなったのを覚えています。
 
秋元先生がこの曲に「春雷の頃」というタイトルをつけてくださった時、思わず「さすがだ…」と唸りました。
静かなトラックに突然雷が落ちるような、あのブラスのフレーズ。
心のどこかで眠っていた気持ちが、ぱちんと目を覚ますような感覚。
そのエモーションがタイトルと完璧に重なっていたからです。
 
22/7に曲を書くことは、僕にとって“音で会話する時間”のようなものです。
次はどんな景色を、どんな衝動を描けるだろう。
未来のステージで、彼女たちの歌声が響くその瞬間を想像しながら、これからも全力で挑んでいきたい。
 
作曲家としても、一人のファンとしても。
22/7とともに走るこの道を、まだ終わらせたくありません。
 
<YU-JIN>



11.「後でわかること」

「後でわかること」を作っていたのは、ちょうど季節が冬から春へ変わっていく頃でした。外はまだ冷たいのに、どこか遠くから夏の匂いがしてくるような、不思議な時期。曲のイメージも自然と春と夏のあいだのような、暑いんだけど風だけはやさしくて涼しい、そんな景色が頭に浮かんでいました。
 
最初に出てきたのはAメロのメロディでした。まるで窓を開けた時にふっと入ってくる風みたいに、すっと浮かんできたメロディで、「ああ、この曲はたぶん流れるような世界になるんだろうな」と思った瞬間の空気を今でも覚えています。
 
Bメロでは、その見えている景色をどこまで見続けても飽きないように、どんなふうに橋渡しをするか、じっくり考えました。季節が変わるときの空の色みたいに、「もうちょっとこのまま眺めていたいな」と思える感じを保ちたかったんです。
 
サビは、とにかくトライの連続でした。
このまま流れに身を任せるのか、思い切って風向きを変えて新しい景色へ行くのか。斉藤さんと何度も話しながら、いろんな可能性を探しました。特に折り返し部分はギリギリまで悩んで、普段なら別メロにするところを、あえて同じメロディを重ねる選択をしました。リフレインした瞬間の多幸感があまりに気持ちよくて、「これはもう、引っ張るべきだ」と思ったんです。
 
鼻歌で作っていたサビがどうしても決まらなくて、ピアノに切り替えた途端にすっと形になる、そんな小さな奇跡みたいな瞬間もありました。
 
最初のデモはかなり作り込んでいたので、大きな変更はありませんでした。でも、実際にアーティストが歌うと、途端に新しい息吹が流れ込むようで、別の景色に変わっていきました。フレッシュで、でもどこか懐かしい匂いのする風が吹き抜けるような──そんな印象がより強くなった気がします。
 
今振り返ると、この曲は自分の中の景色そのものだったのかもしれません。
時の流れは静かだけど確かで、その美しさは後になってわかる。タイトルが自然と心に馴染んだ理由も、きっとそこにあったんだと思います。
 
<高木龍一>



12.「理論物理学的 僕の推論」

J-POPは世界でも類を見ないほど多彩で多様な音楽性を有している。そんなことは世界中のYouTuberが語り尽くしていることであり、私のような駆け出しの作曲家(はじめまして、湊谷陸と申します)に出る幕などないだろう。ただそんなJ-POPにおいても、まだ市民権を掴みきれていないジャンルが存在する。それがポエトリーリーディングである。
 
ポエトリーリーディングはいわば"語り"であり、ラップのように韻を踏んだり、発音をあえて英語っぽくしたりする必要はない。しかし好き勝手語れば良いというものでもなく、音楽の中で語る必然性・芸術性のようなものが求められる。私自身かなり注目しているジャンルであり、J-POPに残された数少ないブルーオーシャンだとも思っている。だが一方で、あまり仲良くない人と行ったカラオケでポエトリーリーディングをやる勇気があるかと言われると、正直難しいところもある。
 
22/7、通称ナナニジはこの青い海を走る一艘の船である。台詞パートのあるアイドルソングは今時珍しくないが、ここまで明確にポエトリーリーディングを武器として捉えているグループは(少なくともメジャーシーンの中では)珍しい。2匹目のドジョウを狙いがちな業界において、そのフロンティア・スピリットはもっと評価されるべきだと以前から思っていた。
 
なので今回、22/7のコンペに参加するに辺り、私はだいぶポエトリー要素の強い曲を提出した。高ぶる創作意欲のままに仮歌詞、というか仮ポエトリーまで周到に書き上げ、自信をもって提出した。アルバムリード曲で採用の連絡をいただいたのは、それからしばらくのことだった。
 
タイトルは「理論物理学的 僕の推論」。あの秋元康氏が自分の曲に詞をつけたという事実に、しばらく脳が追い付かなかった。
 
さて、作曲家らしく曲について語ろう。
この曲にはいわゆるAメロ・Bメロは存在しない。瑞々しいバンドサウンドの中で語りが始まり、やがて世界が開けるようにサビ(歌メロ)が訪れる。歌詞は全編、主人公の独白と思われるが、複数のメンバーが歌い継ぐことで内面の葛藤が表現されている(ように聞こえる)。自分の中に複数の人格を用意して、答えのない問いに思いを巡らす。それこそアインシュタインが得意とした思考実験のようでもあるが、秋元先生はどこまで計算しているのだろうか。
 
楽曲はその後、ギターソロ、Cメロ、転調してラスサビへと進み、最後にまたポエトリーパートが来る。時間の進みを遅くしたいという思惑も虚しく、愛しい日々は流星のように過ぎ去っていく。しかし楽曲を締める最後の一言は、決して悲しみだけを帯びてはいない。聞く人に答えを委ねているような印象さえ受ける。それがまた、楽曲の余白を広げている。
 
総じてこの「理論物理学的 僕の推論」は、グループの魅力が最大限発揮された名曲に仕上がった。仕上がったというか、私のデモを諸先輩方とメンバー皆さんの手で仕上げていただいた訳だが、最初にスケッチを描いた私にもちょっとだけ自画自賛する権利はあると思う。まだの方は是非1度聞いてみていただきたい。
 
最後に。
繰り返しになるが、ポエトリーリーディングは現状、J-POPの中で市民権を得ているとは言い難い。しかしこの数年でラップが急速にヒットチャートを賑わすようになったが如く、風向きは突然変わることもある。この曲が22/7という船の帆に追い風を吹かせるきっかけになればいいし、ポエトリーリーディングというジャンルがもっと浸透していく一助になればいい。駆け出しの作家にしては大仰な望みかも知れないが、 無鉄砲な計画は若さの特権だと誰かが言っていたので、私もそれを信じてみることにしたい。
 
<湊谷陸>



◆紹介曲「春雷の頃
作詞:秋元康
作曲:YU-JIN

後でわかること
作詞:秋元康
作曲:高木龍一・斉藤信治

理論物理学的 僕の推論
作詞:秋元康
作曲:湊谷陸
 
◆3rdアルバム『ABC予想』
2025年12月10日発売
 
<収録曲>
1. 22/7
2. Why are you crying ?
3. スパシーバ!
4. あざす
5. 佐藤さん
6. YESとNOの間に
7. ロックは死なない
8. あなたでなくちゃ
9. 箱庭の世界
10. 春雷の頃
11. 後でわかること
12. 理論物理学的 僕の推論