100%の自信を持って「僕らがついているよ」と言えるようになりたい。

―― 2曲目「ふためぼれ」からの3曲目「alcohol」も力が抜けている流れですね。

この曲は、実は1st mini albumに収録されてる「想いあい」が出来た頃にもうデモはあって。ちょうど20~21歳ぐらいの、好きなお酒もないような学生の飲み方をしている時期だったので、とくに書きたいこともなかったんですよ。自分たちの技量も合ってなかったし。それが今回このタイミングで、メンバーもみんな良い意味で力が抜けていて、もう一度このデモでやってみようという気持ちになりまして。僕も改めて歌詞を書いたんです。せっかく楽しいお酒の場なのに、愚痴ばかり出ちゃう。なんで僕は「嫌だなぁ」とかそんなことばかり言っているんだろう。そういう想いをバーッと書いた感じですね。

―― <旬の妬み>というワードがありますが、それはたとえばどのような…?

男女ともに、お酒を呑むと近況報告になるじゃないですか。その近況報告内の、互いのムカつく事案です。「なんであいつがあんなに評価されてんだよー!」みたいな(笑)。しかも同じ愚痴を毎回言うわけじゃなく、その時々で変わりますよね。1年後にはまた新しい妬みが出てくる。だから<旬の妬み>です。これは自分の悪い部分が出ていますねー。

―― また先ほど、あまり歌詞をループされることはないとおっしゃっていましたが、この曲の場合だけはサビがループしていることで酔っ払い感が伝わってきます。

photo_01です。

あー!そんなこと全然考えてなかった(笑)。たしかにループして酔っている感じがあるなぁ。なるべく歌詞はループしないようにしながらも、一方で、全てサビが違うと逆に情報量が多すぎて、内容が伝わりにくくなることもあるんだなと前作『MORE』を作ってみて思ったんですよね。だから、入り口の広さを広げるという点で今回は、サビの1行目だけは同じにしてみたり、「alcohol」や「ディセンバーフール」のように、サビでは一貫して同じ想いを歌って、AメロBメロで違うことを歌うという挑戦をしてみました。

―― 4曲目「Orange」と5曲目「ディセンバーフール」はヘビーゾーンのラブソングです。まず「Orange」という色からはどんな景色や感情を連想しますか?

パッと思いつくのは、日が沈むか沈まないかのあの30分ですね。夕暮れの時間って、大体は帰り道じゃないですか。僕はその帰り道というものにあまりいい思い出がなくて。一日の振り返りの時間になっちゃうんですよ。「もう一日が終わっちゃった」「学校でこんな嫌なことがあったな」「バイトでもこうだったな」っていう後ろ向きなイメージの色なんですよね。あと夜に音楽制作をすることも多いので、朝陽のほうのオレンジもあるんですけど、それも「あーまたこんな時間までやっちゃって、昼夜逆転だよ…」って思うし。だからこのあまり前向きではない歌詞のタイトルに採用されたのかもしれません。

―― 「Orange」は、いろんな気持ちが入り混じった歌詞ですよね。冒頭の<あれも全部これも全部僕のせいなのかな>というフレーズには、反発心もありそうですし。

うわ、そうだ。自分で書いておきながら今気づきましたが、まさに「100%僕のせいじゃないじゃん」って本当は言いたかったんでしょうね。多分、相手からいろいろ言われたわけですが、反省している一方で、どこかに反発心があるんですよ。だからこそ<優しかった頃の君に会おうとする僕>もいなくなって、そういう自分を冷静に見ているところがあるのだと思います。

―― 最後の<そばにいる人はもう今は君じゃないけど 大切にしたいと思える僕がいるのは 君とのきっと 日々があるからだ ありがとう>というフレーズによって、それまでの回想から現在に飛ぶ感覚になったのですが、この<大切にしたい>と思う相手は<君>ではないんですよね。

はい。<大切にしたい>のは<君>ではなくて今の恋人。ただ、そのひとを<大切にしたいと思える僕がいるのは>少なからず<君>と過ごした日々があるっていう事実のお陰もあるから、伝える言葉があるとするならば<ありがとう>だなって。あと歌詞ができる前、鼻歌で歌っている段階でも<ありがとう>がハマるんだよなーと思っていました。

でもまさにおっしゃっていただいたように、最後の最後で場面が変わるというか、これまでのことは過去だったのか!という感じになるから、ちょっと悩んだんですよね。歌詞をちゃんと読まないと状況がわかりにくいかなと。だからこれは挑戦ですね。今回はとくに、自分の書きたいように、自分が納得できるように、というところを大事にしたので、図らずしもこういう歌詞になりました。このラストは「自分もこんなことあったなぁ」って思ってもらっても、「経験はちゃんとあなたのなかに息づいていますよ」という肯定として受け取ってもらっても良いなって思いますね。

―― 5曲目「ディセンバーフール」は“エイプリルフール”のようなニュアンスですか?

ですね。ちょっと言葉遊びみたいな感覚もあるし、春じゃなく冬であることも伝えられるし、それこそ「嘘ならいいのに」という気持ちも込めたタイトルです。この曲の重さに耐えられるのは、アルバムの最後しかありませんでしたね。

―― この曲は<離れたくない>のに、本当の気持ちを<上手く言葉に出来ない>子が主人公ですが、今作の5曲いずれも“言いたいことが言えない”という点では通じている気がします。

たしかに!本音を言えないがちの僕が書いているから(笑)。ストーリー性とか設定は違うけれど、どの曲も同じことを言っているのかもしれないですね。

―― 本音を言えないのは、気持ちを正確に言葉で伝えたいという想いが強いからでしょうか。

まさにそうだと思いますね。僕は喋り言葉で他者に正しく伝えることができないんですよ。説明も下手くそだし。インタビューも文字に起こしてもらうまですごく不安で(笑)。「ディセンバーフール」も、最初のサビにいくまでの5行で文章として見た時に不十分な文に捉えられる部分もあると思います。でも、フラれた身にとっても、自分の気持ちや言葉は頭の中にいっぱいあるのに、それをわかりやすくまとめることってすごく難しいと思うんですよね。だからそのごちゃごちゃしてしまっている状態をちゃんと表すことはできたかなと。

―― 今回、5曲中「ディセンバーフール」だけは、人称が<私>と<あなた>ですが、使い分けにこだわりはありますか?

曲によりますね。初めて「想いあい」で女性の言葉を使ったんですけど、そうするとなんだか男性だと言いにくいような気持ちをすらすら書くことができたんですね。それを評価していただけたことは、自分にとって大きかったように思います。だから「ディセンバーフール」の<このさよならも消えてくれていいのに>という気持ちとか、女性言葉を借りたほうが素直に伝えやすかったのかな。あと僕が思うに、多分この主人公は切り替えが早いと思いますね。

―― こんなに哀しみ尽くしているのに。何故でしょう。

哀しみ尽くしているからこそです。もうこれは僕の勝手なイメージですけど「マジで最悪!」ってとことん泣いている女の子のほうが、1ヶ月後にはケロッとしていることが多いなと思って。一気に哀しむほうが、ずるずる薄く引きずらないんじゃないですかね。なので「ディセンバーフール」の主人公も、最初から最後まで悲壮感が漂っている分、意外と切り替えは早い気がしています。もしこの主人公が男の子だったら、もうちょっと歌詞に時系列をつけたと思いますね。

―― そういう意味だと、4曲目「Orange」の<僕>のほうが引きずっているように思えてきました。

そういうことですよねー。女の子は結構「2つ前の彼氏のことなんてマジで覚えてないから!」みたいな子が多くて、そういうものなんだなって勝手に思っているんですね。でも男はやっぱり、どんなに時が経っても気づいちゃうわけですよ。それこそ歌詞にあるように「あ、今着てる服のブランド…」みたいな。まだ着ています。家にありますって(笑)。クローゼットも、衣替えなんてなくて、四季がすべて詰まっているような状態だから、なおさら思い出しやすいわけです。

―― ちなみに、兼丸さんの歌詞に登場する主人公の性格や特徴を挙げるとすると、どんなものが思い浮かびますか?

もうみんな後ろ向き(笑)。主人公と言えど、僕の血は通っているので、言葉が上辺のものに聴こえちゃうところとか、素直に嬉しいと思えないところとか、そういう思考は一緒だと思います。曲を通して、一貫して明るいことを歌っている曲ってなかなかないです。たとえ楽しい状況でも、果たして100%そうなのか? 1%でも「もしかしたら遊ばれているのかもしれない」と思う自分はいないのか?という思考に陥ります。必ずちょっと重たく考えてしまう自分が出ている気がしますね。

―― 全5曲のなかで、とくに「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

曲としては「ふためぼれ」と「ディセンバーフール」です。1曲を通して、ずっと好き、ずっと哀しいって気持ちを書くのが、自分にとって意外と難しくて。フレーズとしては「春の中に」の大サビの<『誰から』じゃなく『自分自身』に応えていくんだ>ですね。

誰かからの期待に応えるって、嬉しい面もあるけど、自分では納得できていない状態が結構あると思うんですよ。本当はこういうことをしたいのに、こっちで評価されてもあんまり嬉しくないなとか。そういう気持ちに対して、自分の決意でもあり、同じ悩みを抱えているひとにも伝えられるような言葉を書けたんじゃないかなと思いますね。

―― ありがとうございました!では最後に、これから挑戦してみたい歌詞はありますか?

調子に乗っていないことは前提で、断言できる歌詞。語尾がへにゃへにゃじゃない歌詞(笑)。いつも「~かな」とか書いちゃうし、今のところまだ強気にはなれそうもないんですけど。でもいつか「俺の曲を聴いてくれよ!」ぐらいの心境になることができて、ポッと強気な言葉が出てきたらいいなって。100%の自信を持って「僕らがついているよ」と言えるようになりたいですね。


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