「私もちゃんと覚えているよ」ということを、なかなか伝えられてないので。

―― アルバムタイトルは“I(アイ)”と思いきや、小文字で『l(エル)』なんですね!

これはいろいろ考えまして。私はアルバムのタイトルって、そのとき自分がいちばん身近に感じている単語からヒントを得ることが多いんですね。まずこういうご時世になったから、生活という意味の「LIFE」が浮かびました。そして、生きるという意味、ライブができないという意味で「LIVE」。愛を大切にしたいという意味で「LOVE」。どれも“L”から始まる単語であるところが共通点だなと思ったんです。リード曲「STARTLINE」にも「LINE」のLがありますよね。

あと、小文字の『l(エル)』にしたのは、文字がスタートラインの線に見えるなって思ったから。さらに「STARTLINE」の歌詞の内容もそうだし、今の私自身もそうなんですけど、先ほどお話したように自分の足で立って、未来を見据えたいという気持ちがすごく大きかったんです。すると『l』って、両足を地につけてひとりで立っている姿にも見えてきて。それでこのタイトルにしました。

―― たった一文字にいろんな意味合いが込められているんですね。では、今回の『l(エル)』のテーマを上げるとすると、やはり“自立”でしょうか。

そうですね。自分自身の足でちゃんと立って、凛と胸を張っている感じです。だからジャケットもカッコいい感じになっていますし、曲もわりとポジティブなものが集まったのかなって。こういうご時世なので、去年は心を病んでしまった友達がいたり、私自身もちょっとネガティブになりそうなところを奮い立たせたというか。こういうお仕事をさせていただいている上で、自分には何ができるか、何を発信できるか、すごく考えたんですね。そして能動的に動いた1年だったので、それを表現したいなと思いました。

―― 櫻子さんも、ご自身のイベントや公演が中止・延期になってしまい、気落ちしませんでしたか?

photo_02です。

めちゃめちゃしました。なかでも、いちばんショックが大きかったのは『ミス・サイゴン』という舞台が中止になったことでしたね。この作品は、1年間オーディションをやって勝ち取った役だったんです。だからもう…積み上げてきたつみきをバーンッ!って払いのけられた感じ。でも誰のことも責められないじゃないですか。なんか、こんなことってあるんだなぁ…って。でもだからこそ「チューリップ」という歌を書こうと思えたんです。ただ生きているって、素晴らしいことなんだなって気づけたから、それを歌にしたくて。

―― 個人的にも、すごく歌詞のフレーズがひとつひとつ沁みました。

本当ですか!めっちゃ嬉しい。いや、実はすごく不安なんです。初めて自分で曲も歌詞も作ったので。ファンの方はどう受け止めてくれるんだろうって、ビクビクしています(笑)。

―― いろんな花があるなかで「チューリップ」を選んだのはどうしてですか?

まずチューリップは「愛」と「誠実」という花言葉を持っていて。そしてこの曲は、ある友達に聴いてほしいなと思いながら書いた曲なんですけど、その方がまさに「愛」と「誠実」を持っていらっしゃるので。あと、チューリップって4月に咲く花じゃないですか。ちょうどその友達も4月生まれなんです。それでこの花を選びました。もちろんファンの方へ向けている歌でもあるんだけど、その友達をしっかり思うことで、歌の軸がブレないなと感じたので、あえてひとりを想うというところを大事にしながら歌いましたね。

―― そのお友達への手紙のような1曲なんですね。

ですねぇ…。あと、自分自身に向けた歌でもありますね。自粛期間でおうち時間が増えたとき、久しぶりに「暇」って感じて、同時に「あー、私こんなに頑張ってやってきていたんだ!」と気づいたんです(笑)。そして、こうやって自分と向き合う時間って、本当に大事だなと。生活する上ではお仕事をしなきゃいけないので、なかなかあんなに暇を感じることは、この先もないかもしれないんですけど…。メンタルが乱れれば衣食住に影響するし、逆に衣食住が乱れるとメンタルに影響するし、みんなつい働きすぎてしまうからこそ、この歌にも共感してくれるんじゃないかなぁって思います。

―― この歌では<あなた>と<君>、ふたつの人称が綴られていますが、それはお友達に対する目線と、自分自身に対する目線とが混じり合っているからという部分もあるのでしょうか。

はい。やっぱり人称は統一したほうが良いのかな?とも思ったんですよ。でも、私自身も普段わりと距離感が変わったりするから。たとえば、すごく親しい仲のひとでも、敬語を使うときもあれば、タメ口のときもあるし。だから<あなた>ということで、尊敬や丁寧に伝えている感じが出る部分もあれば、<君>ということで近しい感じが出る部分もあるのは自然なのかなと、そのフレーズの距離感に合う人称を使った感じですね。

―― では、「チューリップ」でとくに書けて良かったと思うフレーズを教えてください。

のほほんとしているなかでの<のびのび 生きていきましょう>ですね。生きる、って歌のメロディーによってはずっしり重くなるワードじゃないですか。でも、改めて感じた「生きることの大切さ」とか「生きているだけでいい」というこの曲の根底にあるメッセージをすごく自然に乗せられたなって。そういうふうに「生きる」という言葉が書けたことが嬉しいですね。

―― もう1曲の櫻子さんの作詞曲「抱きしめる日まで」は、どのように生まれた1曲ですか?

この曲は、メロディーをいただいた際に仮歌も入っていたんですけど、自分のなかで「もう1曲書いてみたい」という気持ちがあったし、曲を聴いたときに「この世界観だったらまた別のアプローチで書けそう」と思ったんです。もうイントロで<どこまでも続く青空は 悲しいくらい美しくて>という2行がパッと思い浮かんで。それで「書かせてもらってもいいですか」とお伝えして、自由に作詞させていただきました。そのうちに『Coo&RIKU』さんのタイアップが決まって、という1曲ですね。

―― まさに「チューリップ」とはまた違うモードで、爽やかでありながら、どこか切なさも感じるラブソングですね。

この歌詞、ファンの方をすごく思いながら書いたんです。遠距離が決まったときから、遠距離中のラブソングなんですけど、今の私とファンの方の距離もそれに近いなって。だから<また会える その時まで 生きていくから>って気持ちとか、本当に私が伝えたい気持ちで。あとファンの方って、私が何かしたことひとつひとつを覚えていてくれて、それがとても嬉しいんですね。でも「私もちゃんと覚えているよ」ということを、なかなか伝えられてないので、その想いを<君からもらった思い出の 点と線 なぞって 見つめてるんだ>というフレーズで届けたいなと。

<2人で聴いたあの曲は 君の声で刻まれてる>というフレーズも大切ですね。ライブのとき、私が歌っていて、聴いてくれるみんながいる。私がマイクを向けると、みんなが歌ってくれる。そういう光景や声がすごく刻まれているから。ライブだったり、ファンの方ひとりひとりと握手しているときだったり、思い出しながら「抱きしめる日まで」を書きました。

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