僕らは今日も叶える 同じ未来を共に描くという夢をあなたがいる だから僕は飛び立てるんだよ
あなたがいる だから僕は踏み出せるんだよ
いつの日か辿り着いて抱きしめあう時
僕もあなたの誇りでありたいもっと歌詞を見る
―― 橋口さんがいちばん最初に曲を作ったのっていつ頃ですか?
15歳ぐらいの頃かな。高校1年生で路上ライブに出て、2曲しかコピーしたことなかったんですけど、見よう見まねでオリジナルソングも作って歌っていましたね。タイトルは「ポリシー」といって、サビには<うまくいかないこともあって構わない>ってフレーズがあって。若気の至りというか…この先、日の目を見ることは絶対にない曲ですね(笑)。
―― wacciはずっと「日常を切り取りどんな人のそばにでも寄り添って歌う」を音楽のモットーとして掲げられていますが、その軸はどのような想いから決まったのですか?
いや正直なところ、軸はなかったんですよね。自分が良いと思ったものを書いて、その歌をどうやってちゃんと伝えられるかに重きを置きながら、メンバーとアレンジして、ライブしていただけで。だから、いわゆるキャッチコピーを考えるときに苦しみまして。多分「日常」とかつけるしかなかったんだと思います(笑)。
あと、当時は「想食系ワンルームミュージック」とか言っていました。そのとき流行っていた「草食系」という言葉とかけて。最初からわりと狭い世界というか、そのシチュエーションが浮かぶような、今回でいう「まばたき」みたいな歌をたくさん作っていたんですよ。壮大な世界を歌うというより、小さな日常を描いたフォーキーな感じの歌。なんとなく後から「日常を切り取りどんな人のそばにでも寄り添って歌う」という軸ができていった気がしますね。
―― 2009年にバンド結成されてから10年以上が経ちますが、今までの活動の波をグラフにするとしたらどんな形になると思いますか?
ちょっとペンを貸してください(紙にグラフを書く)。まず最初は夢に燃えているから、グッと上がっています。そして2012年にメジャーデビューしてから、音楽を仕事にすることの大変さを知っていって、どんどん下がっていって…。で、やっぱり2018年に「別の人の彼女になったよ」が賛否両論ありながらも、メンバーの推しもあって、ちゃんとリリースできて。それがちょっと自信になって上がっていって。でもまたそれに続く良い曲を作らなきゃなぁと思っているなかでコロナ禍になって。今は平行線。ちょうど上がるか下がるかどちらにいくかわからない分岐点にあるかもしれないですね。
―― その2012年以降のくだり坂になっている部分は、とくにどんなところが大変だったのでしょうか。
うーん。良い曲だと思ってリリースしても、なかなか見つけてくれるひとが少なかったり、結果が出ていなかったりということに対する焦りがすごくありましたね。タイアップもたくさんつけてもらっているにも関わらず、広がらない悔しさもありましたし…。なんでなんですか(笑)?
―― 2014年の「東京」とかド名曲だと思うんですけどね…。
ですよね!あんまり「東京」は広がってないんですけど、もっとこの曲も“別カノ”みたいに口コミで広まってくれて良かったのになぁって思います…(笑)。まぁ2015年にリリースした「大丈夫」はドラマの主題歌だったということもあって、よりいろんなひとの背中を押せる曲だったのかなと。
さっきも言ったように、最初は「想食系ワンルームミュージック」というか、淡々とした邦画みたいな曲が多かったんですよ。でもデビューしてからはタイアップの関係もあり、よりキャッチーで、誰もが共感する言葉で、大きなテーマで勝負する必要が出てきて。それが僕はなかなか下手だったんです。
で、事務所には“いきものがかり”という、それこそ王道でしっかり勝負して成功している先輩がいたから、背中を追いかけつつ、勉強させてもらったりもして。書き手として「自分たちが世に羽ばたいてゆく曲の正解って何だろう?」と苦しみながら作っていた時期があったんですね。その結果が初めて出たのが「大丈夫」だったんです。だからこそ嬉しくて。本当はこういう“背中を押す系”の応援歌、僕自身あんまり得意じゃないんですよ。今回の「あなたがいる」みたいな曲もそうですね。
―― そうなんですか!
そう。実は“別カノ”みたいに、女性目線で暗いラブソングを書いているほうがたぶん向いているんです(笑)。だけどメジャーデビューしたからには、老若男女問わず愛される、お茶の間感のあるバンドとして頑張っていきたい気持ちがあって。それを意識してリリースした「大丈夫」が受け入れてもらえてすごく安心しました。でも同時に、また「大丈夫」路線の良い曲を作らなきゃと。そこもさっきのグラフで谷になっている部分の苦悩ですね。キャッチーパターンの曲作りは、メジャーデビューしてから今まで、ずっと苦しみながらも挑戦し続けていることのひとつなのかなと思います。
―― その谷を抜け出す転機にもなった「別の人の彼女になったよ」ですが、歌詞エッセイにも書いていただいたとおり「(スタッフから)批判的な意見も多かった」と。それはwacciらしくないからですか?
そうなんじゃないですかね。それこそ、誰も傷つけない、あたたかい、背中を押す曲がメインだったので。とくに男性からは「こんな歌を誰が聴きたいの?」とか「聴いていて気持ち悪い」という辛辣な意見もあったり…。女性でも否定的な方は結構たくさんいましたね。wacciは“誰かのための歌”を歌ってきたからこそ、真逆なものに感じられたんだと思います。「別カノは心から良いとは思えない」という方が多かったです。
―― どんな恋愛をしているかで受け取り方が大きく変わるのかもしれないですね。
そう、ストライクゾーンが広い曲ではないんですよ。ただ刺さるひとにはものすごく刺さるというか。あとこれは、今まで歌ってきたなかでの僕の肌感覚なんですけど、すごく恋愛経験が豊富なひとにほど刺さる(笑)。
―― え、なぜですか!
この歌詞にぴったり共感する人には、前の彼から今の彼に短期間で乗り換えた過去があるというか。つまり恋愛経験が豊富。そうじゃないと「え、何この女!ひどくない!?」と感じるんですよね。いや、刺さらないひとがどうとか、刺さるひとが恋愛を大事にしてないとか、そういう意味じゃないんですよ。ただ、本当に狭い曲ではあったのかなって。
―― ちなみに“別カノ”を作ったときには、もともと「今までのwacciと違うタイプの曲を書きたい」という気持ちはあったのでしょうか。
いや、実はこういうタイプの曲ってもっと前からあるんです。選ばれないから世に出てないだけで(笑)。大体は「大丈夫」とか「あなたがいる」みたいな、まっすぐな曲を一生懸命に書いて。でも下手で「マジで才能ない…」って悲しんで。その合間にストレス発散的な感じで書く曲があって、そのひとつが“別カノ”だったんですよ。短時間でスルっと書けちゃう曲。
あと「感情」も少しそういう面がありましたね。いろいろわけがわからなくなって「どうしよう…」となっていたとき、息抜きに<感情><動揺><表情>って「韻を踏むの楽しいな~」と書いていたらできた曲。そうやって生み出す苦しみのなかで簡単に生まれた曲のほうが、意外と届いたりするのかなと思ったりしますね。難しいですよね。
―― “別カノ”を機に「足りない」や「劇」や女性アーティストへの提供曲など、新たな“橋口さん節”ができてきているように思えますが、ご自身としては新しい武器が増えた感覚とはまた違うんですね。
そうなんです。ずーっと家で眠っていた刀が、やっと武器として認められた感覚です(笑)。最近は曲提供のお話をいただくときに「別カノが好きなので、そういうニュアンスの曲を」と言っていただけることも結構多くて。そういう曲はかなり楽しみながら書けていますね。
―― 「なんでこんなに女の子の気持ちがわかるんですか?」って言われませんか?
言ってもらえます(笑)。でもこれ自分で言うのは本当にイタいんですけど、僕はすごく恋愛相談をされるタイプでして。「今の彼マジでありえなくない!?」「え、やめな!そんなひとやめな!」みたいな(笑)。そうやって女子会にいても大丈夫な感じで、男女ともにフラットに接してもらえるタイプなんですね。これまでの人生で女性目線の話とか気持ちを耳にする機会も、かなり多かったんだと思います。男性と女性にはそれぞれこういうところがあるとか、こういう言葉は女性にとって上から目線に感じるとか、そういうものが自分のなかの大切な記録になっていて。それをもとにして曲を書いているところはありますね。だからとにかく人の話は一生懸命に聞きます(笑)。