恋よりも愛のほうが実は脆かったりするんですよね。

―― 4曲目「あたりまえに」はドラマ『ちょこっと京都に住んでみた。』主題歌です。ドラマのなかでもおじいさんが、「当たり前のことをいちいち言わんでよろしい」というセリフを度々言うんですよね。

まさにそこからきっかけをもらった曲です。<普通>と<あたりまえ>って、同義語で使われるときもあるけれど、よく紐解いてみると、ちょっとニュアンスが違うんですよね。<普通>って、いわゆる<一般的に>って意味が強いじゃないですか。でも<あたりまえ>はより“自分にとって”という面が大きいなと。

たとえば、おじいさんの言うように、おいしいものを食べておいしいと感じるのは<あたりまえ>で。だけどその<あたりまえ>があることこそが幸せなんだなぁと改めて実感して。そういう“自分にとって”の<あたりまえ>を大事にしようと思ったんですよね。

さらには、<普通>と<あたりまえ>の違いでいちばん大きいのは、その事柄がマイノリティーかどうかで。マイノリティーなことが、誰かにとってはすごく大事な<あたりまえ>だったりする。そのマイノリティーな<あたりまえ>を、たとえ他者と違っても、自分がどれがけ大事にしていけるかというところも伝えたいなと思って書いた曲ですね。

―― たしかに京都のひとたちも、それぞれの<あたりまえ>の積み重ねを大切にされていましたよね。

そうですね。食材はスーパーじゃなくて、専門店で買うとか。100年以上経った食器を直して使うとか。京都のひとは、「いや、当たり前だよ」って言うかもしれないけれど、東京で育った私からすると、「歴史を大事にしていて、丁寧な暮らしで素晴らしいな」って感動して。

そういった生活も、思想でもなんでも、マイノリティーだと思うことも、誰かにとっての<あたりまえ>なのだと感じていたい。大事にしたい。あとEPの物語的にはやっぱり<笑って君と過ごす日常を あたりまえに>って願いも込めましたね。

―― この「あたりまえに」でたどり着くのは“愛”ですが、<これって愛なのかな? この気持ち君も同じなの?>と、「シンクロ」ほど“同じである自信がない”ところもリアルです。

そうなんですよ、恋よりも愛のほうが実は脆かったりするんですよね。恋のときの、「勢いで前だけ見てきました!」っていうのと違って、愛は相手を思う気持ちがより強くなるからこそ。自分主体だった恋が、相手を思いながらのふたりの物語になって、迷いや弱さも出てきて、そうやって愛は育っていくのかなと思いますね。

―― では、この4曲のなかからmiwaさんがとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

花が咲くように胸がときめいて
「ありがとう」じゃ君に伝えきれなくて
「好き」なんてまだ胸にしまいこんで
Bloom

このフレーズが出てきたとき、よっしゃー!って思いました(笑)。語呂も文字数もいいし、<君>と<私>の距離感にピッタリで。「ありがとう」と「好き」の関係性について書いた歌詞も今までなかったので、この曲らしさですね。今は精一杯の「ありがとう」で「好き」を伝えている距離感、いいなぁ…って『サクラ、サク。』を読んで思っていたので。そこを表現できてよかったなと思いました。

夏の夜 恋しくなる
肩を寄せ合って花火したね
砂を蹴るサンダル
鼓動が速くなる
君の手のひらがそっと頬触れた

この一連の情景描写が好きですね。肩がぶつかる感じの距離感とか。サンダルを履いて砂浜を小走りしたり、追いかけっこしている感じとか。さらには、「そこから…キスするの!?」みたいな(笑)。そこをワンフレーズにギュッと凝縮できたのがお気に入りポイントです。

いつでもいつまでも話していたい
私たちよりたしかなものなんてない
世界中探してもあなたの代わりなんていない

「シンクロ」は、5年前に書いたフレーズもいっぱい入っているんですけど、ここはデモにメロ自体がなかったんですね。結構アレンジの雰囲気もいきなり変わるので、新しく作ったメロディーにどんな思いを乗せようかと思って、親友に相談したんですよ。

それで、「私たちを表すような言葉って何かな?」と訊いたら、「いつもさ、いつまでも話していたいと思うよね」とか「世界中に代わりはいないって思う」とか言ってくれて。あー、すごい嬉しい!私もまさにそのとおり!そう思う!みたいな(笑)。その気持ちをそのまま書けたので気に入っています。

あたりまえにふざけながら

<ふざけながら>っていう日常感。「何を話していたか忘れちゃったけど、なんであんなに笑ってたんだっけ?」みたいな、何の記憶にも記録にも残らない瞬間がいちばん幸せだなぁと思います。

―― miwaさんにとって、歌詞ってどんな存在のものですか?

私はもともと洋楽が好きで、どちらかというとメロディーや曲調にこだわるタイプではあって。今でも自分は作詞が得意なほうではないし、難しいなって思うことも多いんです。でも、歌詞を通して私のメッセージを伝えて、それが誰かに届くという感覚を活動のなかでどんどん実感するようになっていて。

つい先日も、ファンの方からメッセージをいただいたんです。その方は病気が重なって、そのたびに頑張って克服してきたけど、今回ばかりは治らない病気になってしまったと。今までは弱音も吐いたことなかったけど、なかなか前向きな気持ちになれない。そんなときに、『INSIDE THE FIRST TAKE』の「Sparkle」を観て、<どうやって 生きるのか 挑むのか>というフレーズを聴いて、自分はまだ挑むことをしてなかったんじゃないかって思えて、涙が出たって。

そのお話を聞いたとき、歌詞を通して思いが伝わるということを改めて実感して。あの「Sparkle」はものすごく思いを込めて歌った、本気の歌だったので、それが伝わったのももちろん嬉しかったし。その<どうやって 生きるのか 挑むのか>っていうワンフレーズがちゃんと届いたんだと思うと、歌詞ってすごいな、尊いものだなって。

―― ひとりの人生を動かしちゃうくらいの力が歌詞にはありますよね。

きっとその方の心には<どうやって 生きるのか 挑むのか>ってフレーズが刻まれて、聴くたびに強い気持ちを抱いてくださると思うんです。だから、歌が上手いか、ピッチが合っているか、高い音が綺麗に出ているか、そういうことを超えて、いかに自分の思いを届けられるかって考えたとき、やっぱり歌詞ってすごく大事なんですよね。歌い手としても、書き手としても、より丁寧に大切に歌詞を作っていきたいなと思います。

―― ありがとうございます。最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

最近はシティーポップや様々な音楽を聴いて、感じるところを形にしたいなとも思っています。


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