けなげな女の子を書くときがいちばん楽しいし、自分はこうはなれないと思う。

―― 今作の収録曲は、10年間の楽曲を網羅しできあがった“恋愛網羅図” から『喜び』と『痛み』を歌った30曲を厳選されたんですよね。

それぞれのコンセプト要素がより強いものをセレクトしました。改めて恋愛網羅図にしてみると、こんなに『痛み』が多いのかとビックリして。『喜び』って「好き!」とか「幸せ!」とか感情がシンプルじゃないですか。でも『痛み』はより深くて複雑でいろんな種類があるので書いていても楽しいんですよね。たとえば『恋の痛みを知っているあなたへ』の「忘れてやるもんか」は多分、SHISHAMO楽曲のなかでもずば抜けて“痛い”曲なので、これを1曲目に選べたのは満足です。

―― 「忘れてやるもんか」の<女の子を大切にできない男なんて 全員漏れなく死ねばいいのに>というワンフレーズはとくに鋭く、100%女の子の味方をしてくれる心強さがあります。

普段あんまり言えないことを歌うとスッキリしますね。これを聴くことでスッキリしてくれる子もいるんじゃないかなって気持ちで書きました。ラブソングを書くときはいつも、恋する女の子に対して頑張って生きていってほしいな、とどこか漠然と応援する気持ちを持っているところがあります。

あとこの曲は、聴いたときの男の子の反応で本性がわかるというか。大体「そうだよね」と言ってくれる人と、「怖い」と言う人がいるんです。「怖い」と言う人は何かしらやましいことがあるのかなって…(笑)。

―― 一方で、幸せなラブソングを書くのは難しいとおっしゃるアーティストは意外と多いのですが、『喜び』サイドの楽曲を聴くと宮崎さんは幸せを描くのも得意そうですね。

あぁ~、自分自身がわりと幸せなときでも冷静に感情を見られるタイプなのもあるかもしれません。でもやっぱり100%の幸せはないと思っていて。『喜び』サイドの楽曲を書く上でも、どこかに「でもいつかは一緒じゃなくなっちゃうかもしれない」という不安を書くことが多いですね。だからこそ「今が幸せ」という気持ちがより際立つというか。幸せなラブソングほどそういう部分を深く考えていきます。

―― ラブソングはどんなときに生まれることが多いのでしょうか。

どうだろう…。日常のなかでずーっと書いている感じなんですよね。SHISHAMOは詞先なので、歌詞がないと曲を作り始められない。なので、とにかく朝から夜まで何か思いついたらバーッと書く。でもポエムというよりは、最初からがっつり歌詞の形のワンフレーズとして書いています。なんとなく自分のなかで、「ここはサビになるかな」とか考えながら。曲をつけたあともあまり歌詞が変更になることはないですね。

―― 生まれた瞬間のことをとくによく覚えている楽曲はありますか?

photo_01です。

夢で逢う」かなぁ。歌詞にするのは私自身の恋愛ではないとはいえ、自分が感じたことから広げて書くことは時々あって。この曲はそのひとつですね。ある日、私が昔好きだったひとが夢に出てきて。「うわ…」と思って(笑)。しかも夢ってわりと一日引きずるじゃないですか。こういう経験があるひとって、結構いるんじゃないかなと。起きた瞬間にそのままベッドでバッ!って書いて、曲まで作った覚えがあります。

―― ちなみにSHISHAMO楽曲には「夢で逢えても」という曲もありますよね。「夢で逢う」の続編のようなイメージだったのでしょうか。

私のなかではそうですね。「夢で逢う」って個人的にもすごく好きな曲で。でもこの主人公のこういう葛藤って、この曲で完結しているわけじゃないんですよね。まだ生きているというか、その子の生活はまだ続いていて、苦しんでいる。それが現実じゃないですか。たくさんある曲たちのなかの、ただのいち主人公ではあるんですけど、その後の人生も書けたらなと思って。そういう気持ちで「夢で逢えても」を作ったのを覚えていますね。

―― では、『痛み』サイドの収録曲で他にお気に入りの曲を挙げるとすると?

許してあげるから」ですね。2019年に出したシングル「OH!」のカップリングなんですけど、自分的にはすごく好きな曲なのに、アルバムに入れることができなくて。収録曲のバランス的に落選しちゃったんです。なので今回報われた感じというか、入れることができて嬉しいです。

この主人公は何があっても“離れる”という選択肢がなかった。だけど、相手はそうじゃないという時点で終わっちゃっている。そこに『痛み』があるんですよね。あと、自分の価値を下げられるようなヒドイことをされたとき、相手を切り捨てられるかどうかって、その女の子の人間性だけによるものじゃなくて。相手への気持ちの大きさにもよるんだろうなと思います。

―― 曲によって「許してあげる」主人公と、「許せない」主人公がいますよね。

私自身のことじゃないからこそ、いろんな結論を書ける気がしています。実体験を書いていたら、同じような主人公になって、しかもすごく気が強くてめんどくさい感じの女の子の曲ばかりになるんじゃないかな(笑)。こういうけなげな女の子を書くときがいちばん楽しいですし、自分はこうはなれないなと思いますね。

―― 『喜び』サイドの収録曲でとくにお気に入りの曲というと?

君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」ですかね。書いていて特に楽しかったですし、ライブで歌っていてもすごく気持ちがいい。この曲は、とにかく「好き!」って気持ちを書いていく歌詞にしたくて。でもやっぱりさっきお話ししたみたいに、この子のなかにも不安があって。<穴開くほど見つめて覚えてもいい? 私のものじゃなくなるその日のために>というフレーズがあったり。SHISHAMOの持っている良さを出せた曲かなと思っています。

―― いろんなSHISHAMOのラブソングを聴いていくなかで、宮崎さんはその場の温度感だったり、湿度感だったりの描写が非常にリアルだなとも感じました。

ありがとうございます。まさに私は天気や気温、空気感、その場の匂いとかにきゅんとしやすいタイプで。それを歌詞にできたらなっていつも思っているんです。とくに「熱帯夜」とかわかりやすいですよね。この曲はもうそこ始まりというか。夏が始まるくらいの、夜ベランダに出たときちょっとむわっとする感じ。「あ、夏がくる」ってわかるあの空気感がすごく好きで。それを歌詞としてもサウンドとしても感じ取ってもらえるような曲を作りたかったんです。

あと「真夜中、リビング、電気を消して。」とかも、真夜中のリビングのスッとした感じを書きたくて。あの空間、いいことがないですよね(笑)。絶対にいちゃいけないんですよ。その危うさみたいなものをうまく表現できたんじゃないかなと。やっぱり改めて、その“空間”を書くのが好きなんだろうなと思います。

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