―― 詩織さんが人生でいちばん最初に書いた歌詞、もしくは詩って覚えていますか?
中学時代毎日、日記を書いていたんですけど、その最後に2~3行のポエムのようなものを綴り続けていました。出来事というよりマインド面で、その日そのときに思ったことを。自分を元気づけるような、「私、頑張れ!」という気持ちが根っこにある内容でした。自分を鼓舞するための歌詞というのは、今の音楽にも通じているのかなぁと思います。
―― 今、12ヶ月連続で歌詞エッセイも執筆いただいています。気持ちを書いて言語化する力は中学時代から培われてきたものなのかもしれませんね。
いまだに誰かと話をすることがものすごく苦手で…。それに比べるとずっと、書くほうが思っていること、本音みたいなものは自然に出しやすいのかなと思います。
―― デビュー当時は、どんな歌詞を書くアーティストになりたいと思っていたのでしょうか。
日記と同じように、どうしようもない自分と向き合って、自分自身に問いかけて、鼓舞するような気持ちでひたすら書き続けていくのかなぁと思っていました。デビュー曲の「ゆれるユレル」も、もともとはクラスメイトにちょっと…苦手な子がいて、その子に向けて書いていたんですね。でも最終的に自分自身に向けた歌詞になっていました。1stアルバム『しおり』では、曲によっては自分じゃない誰かをイメージしながら書いたりしたんですけど、やっぱりどの主人公も自分に重なるパーソナリティーがあって。どの歌詞も自分に繋がるなぁと。
―― 10年以上、歌詞を書き続けてきて、“新山詩織らしさ”ができあがったと実感されたタイミングはありましたか?
曲でいうと「絶対」と「分かってるよ」は自分にとってのターニングポイントだったなと思います。「私は根っことしてこういうことを書いていきたいんだな」って改めて実感したというか。それまでも自分の気持ちを出してはいたんですけど、もっとストレートに偽りなく包み隠さず出せた曲でしたね。
―― より自分を出せるようになった理由というと?
当時は高校を卒業して、二十歳を迎える前ぐらいだったかなぁ…。10代の頃は学校という場所に居ながら出てくるものを書き続けていたんですけど、一気にその環境がなくなって。「次は何を書けばいいんだろう。何を書きたいんだろう」って悶々としていた時期だったんです。
でも本当に何も出てこなくて。どうしよう。ヤバいぞと。とにかく部屋にこもって、言葉を書いて出す、ということを朝から晩までやり続けて。その結果できた曲なんですよね。そうやってかなり自分を掘り下げたからこそ出せた言葉で、「これだ!」って感覚があったのを覚えています。
―― その後、音楽活動を続けていくなかでも、「何を書けばいいんだろう」というようなスランプはありましたか?
はい、節目節目で。たとえば二十歳を越えたタイミングで出した「隣の行方」も。20代に入って、いよいよ自分は違う世代になったんだと実感して。新山詩織のイメージの持たれ方や見られ方も変わってきたところで、また「何を書けばいいんだろう」とすごく悩みました。
―― その悩みからはどう抜けていくのですか?
自分だけだと行き詰っちゃうことがほとんどなので、友だちに会いに行ったりします。私は高校時代、放課後ほとんど仕事に出ていたので、その時間を取り戻すかのように(笑)。もうお酒も飲めるようになったので、仕事が終わってから飲みに行って、友だちの近況とか恋愛模様とか自分じゃない話を聞くんです。10代の頃からの友だちだからこそ、その子の話を聞くことで、同時に自分自身の月日の流れや成長に気づけることも多いですね。
―― また、音楽活動休止中(2018年12月~2021年4月)のお話も聞かせてください。新たな夢へのチャレンジとして、福祉系の専門学校に通われていたのですよね。
当時は「何かになりたい」というより、とにかく自分を音楽から離れた、まったく別の新しい環境に置いてみたいという気持ちがいちばん先にありました。そして福祉という分野には多分、自分が最も苦手としているものが詰め込まれていたので、それも挑戦のひとつの理由でしたね。
―― 「ひとと話をする」とか「ひとと関わる」というところの最たる分野ですもんね。
学校の授業でもグループ活動がほとんどで。クラスメイトは私より年下の10代の子ばかりだったんですけど、その子たちと組んで何かを話し合って、みんなで発表する。そういうことは今までの自分が絶対に避けていたことだったんです。それをほぼ毎日やるというところで、1から自分を変えていく、見直していく、いいきっかけになったかなと思います。私は大学に行ってなかったので、ちょっと遅い大学生活を送ったような感じでした。
―― 「とにかく自分を音楽から離れた環境に」というのは、音楽のために一度離れたかったのでしょうか。もしくは、まったく音楽とは異なる職業選択も視野に入れられていたのでしょうか。
始めは後者に近かった気がしますね。ちょうどまわりの友だちが就職するタイミングで。自分も一度、音楽から離れた景色を見て、いろんなひとと関わって、新しい自分探しをしてみたいなって。でも学校に通いながらも、帰ってからギターを弾いて、歌って、曲を作ったりしていて。結局、私が音楽から離れられなかったんです(笑)。
―― 専門学校での学びや出会いは、きっと今の詩織さんの音楽にも大きな影響がありましたよね。
本当に大きいです。通ってみてわかったんですけど、福祉に関わるひとって個性的な子が多い。クラスには、若くして大人びた子もいれば、まだまだ少年少女の子もいたんですけど、すごく素直な子たちばかりで。で、学校ならではだなと思ったのが、常に愚痴とか誰かの陰口が絶えなかったことで。そのなかで、「私、ホントあいつ嫌い!」ってストレートに言う子がいて(笑)。こんなに言えちゃうんだ!ってビックリしました。
私自身はあまり誰かを嫌いになりたくないというか、嫌いにならないようにしてきたんです。あえて「苦手」という言葉に落ち着かせたりして。だからこそ自分にとって「嫌い!」という言葉は大きくて、衝撃的、印象的でした。それがすべてのきっかけというわけではないけれど、今回のアルバムで意識した、自分のダークな部分を出そう、ひとにはあまり言いたくなかったようなことを言おう、というところに繋がったのかなと思いますね。
―― まさに今作の収録曲「Hate you」は今のお話に繋がるような歌ですね。
そうですね。誰かを嫌だと思ったり、口に出したりすることは、悪いことじゃないんだろうなというか。きっとみんな一度は思ったことがあるんだろうなって、自分自身にも言い聞かせられて。あんなにはっきり「嫌い!」と言える子に出会ったことで、初めてこういう曲を書くことができたんだと思います。