結局、リーダーは何でも書けるし、書きに走るんだと思います。

―― うれしくて」のMVも公開されましたね。ファンの方からはどんな声が印象的ですか?

水野 なんか…泣いてくれた方が多いみたい。

吉岡 そうなんだ! まだ収集しきれてなくて。

水野 エゴサ魔だから。その感想は…意外だった。意外と言ったら変だけど。

吉岡 でも意外かも。ポジティブ~!みたいなイメージのほうが伝わるのかなって。

水野 僕らが言ったらちょっと恥ずかしくなっちゃうんですけど、「すごく希望が詰まっている」とか「励まされた」と言ってくださる方も多くて。それが素直に嬉しかったかな。そんなに希望を全面に押し出したつもりも、そこを語ったこともあまりないんですけど、たしかに“祝福”みたいなイメージはさ、作っているときにあったじゃん。

吉岡 そうだね。自分たちで言っていいかわからないけど、なぜかきらきらした雰囲気のMVになっているなと思う。すごくシンプルなんですよね。ひとつ回転するステージがあって、ピアノがあって、ふたりがいる。後ろには風景があって、光で時間の流れを表現していて。シンプルなんですけど、きらきらしている、私もすごく好きなMVになりました。

―― あれは一発撮りですか?

水野 1カット長回しですね。でもほぼぶっつけ本番の一発撮りだった。もう2テイク目で監督がOK出していて。しかも1テイク目はチェックみたいな感じだったから。

吉岡 2テイク目で回転するステージでやって、すぐOKになったね。あのセット、すごく感情が湧いてくる仕組みになっていたんですよ。光の色がじっくり変わっていく。パーって光が差してきたときには「眩し~!」ってなるし。大きな月は撮影中に見惚れるほど綺麗で。しかも実はステージの下に水を撒いてあって、よく見ると月が反射しているんですよ。シンプルに見えて繊細で。そういう環境のなかで、バンッ!ってやる感じだったね。

水野 ライブっぽい感じだったよね。

―― あとやはり、おふたりの距離の近さにもグッと来ている方、多いのではないでしょうか。

水野 あら。

吉岡 あれ。

―― 個人的には<もっと声かけて>で、アイコンタクトされるところが好きです。

水野 僕は目をそらしています(笑)。

吉岡 2人体制になったのでね、もう頑張っていくしかないなと(笑)。

―― また最近は、水野さんがギターではなくピアノを弾いている姿が多いのも印象的ですね。

水野 そうなんですよ。たまたまそういうシーンが増えちゃった。

吉岡 気づいたらピアノでばっかり曲を作っているし。

photo_01です。

水野 そう、とくにここ数年。あと2人体制になって最初のライブがこのスタイルだったんですよね。もちろんいつもお世話になっているバンドの方々と、みんながCDで聴いているような音源を聴かせるライブも大事なんですけど。ぽんとメンバー2人だけになったときも、核としてやれることがないとね、って。それで僕が鍵盤を弾いて、聖恵が歌うというのが今できる形なんじゃないかと。

吉岡 だからまたギターを持ったら、最近とは違う曲ができるかもしれないよね。

―― そして「うれしくて」は<わたしたち>の歌ですが、一方の「ときめき」は<わたし>のための応援歌になっていますね。

吉岡 「ときめき」を最初に聴いたのは実は結構前で。

水野 まだ聖恵が出産する前だったよね。

吉岡 そう。だから私が歌い手であることとか置いておいて、すごく励まされた。簡単な言葉になっちゃうんだけど。いろんな曲があるなかで、「こういう物語わかる~」って距離感のものもあれば、「そうそう!」って自分事になるものもあって、この曲はより後者の面が強かったですね。自己肯定がテーマだと言っていたので、本当にそのとおりだなって。実感が込められているというか、すごくハッピーな歌になっていると思います。

水野 自分の物語を自分で揺らぎなく肯定していくって、今はすごく難しいことで。当時、聖恵も出産を控えていて、歌い手としての自分であったり、母親になる自分であったり、僕が知らないところで人生プランについていろいろ考えたと思うんですよね。で、同じように悩んでいるひとは男性でも女性でもいるはずで。そんなときに、自分で自分を肯定して前に進んでいける歌を書けたらいいなって、僕は思っていましたね。

吉岡 グッと来たよ。

水野 あぁ、よかった。

―― 「ときめき」には<涙はかならず あたらしい夢になる>というフレーズがありますが、水野さんが<かならず>というワードを使われるのは珍しいなど。これはどこか「気まぐれロマンティック」で<この手はかならず 離さないで ね>と言っているあの子の「絶対に幸せになる!」という強さも感じました。

水野 あぁ! でもたしかにちょっと意地っ張りみたいな強さが必要でした。だってもう冒頭が<世界はいまきらめくよ わたしがそう決めたから>だから。「なんか文句ある!?」って感じあるよね。

吉岡 そう、この主人公は押し強いよね(笑)。まわりから見ても強いけど、自分のなかで決めている強さがあって、それが揺らがないのが魅力だなって思います。<涙はかならず あたらしい夢になる>ってフレーズも押しつけじゃなく自分自身に言っていて、自分で信じている感じがする。そういう強さと愛らしさがある歌だなと思いますね。

―― では、少し大きな質問になってしまうのですが、いきものがかりにとって歌詞とはどういう存在ですか?

吉岡 いきものがかりにとってかぁ…。

水野 どうだろうね。難しいね。

吉岡 でも、リレーで繋げている感はあるよね。

水野 たしかに。バトンを渡している感じだね。僕が書いて、聖恵に渡した段階でゴールでもないし。これを聴いてくれるひとに渡す感じ。そのあとは、広がってほしいし、あわよくば聴くひとにとってポジティブになってほしいという願いはもちろん強く持っているけれど、もうコントロールはできないというか。みんなのものになる。いい意味で、「自分たちのもの」って感覚がどこか稀薄なんだと思う。

吉岡 そうだね。作った本人の気持ちや考えとは違うものになっているかもしれないけど、でもやっぱり伝わってほしいとは思っているから。歌詞は「伝わってほしい」という思いのバトンなのかもしれないですね。

―― ありがとうございます! では最後におふたりがこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

水野 何があるかなぁ…。取り立ててこのシチュエーションやテーマをやりたい、というのがないのかもしれない。でも書きたいものがないわけではなくて、常に今書いているようなことを書きたいと思っているんですよね。

吉岡 書きまくっているよね。

水野 書きまくっている(笑)。だから「これは書けてない」みたいなものはないかもしれないですね。

吉岡 すごいことだよ。

水野 あと「恋のこの場面を書きたい」みたいなのは、もっとうまいひとがいると思うんですよ。たとえば不倫の歌だとしても、松本隆先生が書いたら僕よりずっと繊細な物語が生まれるはずだし。そこを目指すほどの力は自分にはないと思っていて。だけど、たまたまこのグループにいられて、吉岡聖恵というシンガーに出会えて、みなさんのおかげで“みんなのうた”のような曲を作ることができるから、そこに書きたいものを真っすぐ投げていきたい感じですね。

吉岡 それに「書きたい!」って思ったら、他のひとがどうとか関係なくて、もう書くもんね。結局、リーダーは何でも書けるし、書きに走るんだと思います。

水野 そう、すぐ球を拾いに走る(笑)。

吉岡 私はここ数年、「あ、こういう気持ちあるよね!」ってテーマで書くことが多くて。ここ数年でもないか。もう「GOLDEN GIRL」ぐらいまで遡っちゃうもん。だから逆に、「全然この気持ちは理解できないなぁ」ってものを、あえてやってみたいですね。難しいんでしょうけど、書いてみたらおもしろそうだなと思っています。


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