―― 2曲目『「君の幸せを」』はポエトリーリーディングから始まるラブソングです。Uruさんは歌う声にも語りの声にも切なさが滲んでいて魅力的だなと改めて感じました。
嬉しい…!ありがとうございます。私は歌詞を書くときも、歌うときも語るときも、主人公を憑依させることが多くて、この曲はとくに想いを込めやすかったです。何かフックになる新しいことをしてみたくて。私のライブでは楽曲から紡いだ物語を朗読してから歌に入ったりするのですが、それをそのまま曲で表現してみたらどうかな、というところから作った曲ですね。
―― 歌詞はどんなマインドのときに書いたのでしょうか。
曲自体は「紙一重」と同じくらいにできていて。ちょっと昔のR&Bっぽさもあると思うんですけど、そういうサウンドが好きで作ったんですね。歌詞を入れるときにそこから雰囲気を膨らませたら、こういうシチュエーションになった感じなんです。
―― 歌詞の節々から<私>の像がとてもリアルに浮かんでくるのですが、このお話のモデルはいらっしゃるのでしょうか。
いえ、それがいないんです。やっぱりこの曲を最初にみなさんへ届けたとき、「Uruさんの実体験なのかな…」という感想が多かったんですけど。私自身の話でも、まわりの誰かの話でもなく、本当に想像の世界で。小説を書くように感覚で書いた歌詞なんです。ライブのとき自由に物語を紡ぐように。
この曲は聴いてくれた方が、いろんな<私>と<あなた>の関係を想像してくれているのも興味深くて。「<3回目のバースデーケーキ>ってどういうことなんだろう?」とか。
―― でもまさに<3回目の誕生日>というタイミングが切なさの肝ですよね。
2年だったらもう少し簡単に戻れたかもしれない。4年も経っていたら、いっそ割り切ってもっとズルズル続けていたかもしれない。でもいよいよ<3回目の誕生日>を迎えてしまうという節目を前に迷って、<それでも伝えたいとやっと思えた>んですよね。
―― その「伝えたい」想いとは<好き>ということではなく、むしろ<あなた>もその気持ちは十分に知っていて…。
そうなんです。<私>はしっかりとした形を求めているんですよね。中途半端な関係を抜け出したくて、「確実な何かが欲しいんだよ」って伝えたい。でもこれだけ<あなた>と一緒にいたから、それが届かないであろうことも、<「君の幸せをずっと祈っている」なんて つまらない答え>が返ってくるであろうこともわかりきっちゃっている。
だからこそ、最後の<「ありがとう」と笑って返せるように>というフレーズにはいろんな感情が含まれていて。強がりも、「そうしないとどうしようもないよ…」という虚しさも、「泣きたくもない」という怒りも、「なんで私だけ」って悔しさも。「あなたが幸せにしてよ」って言いたいのが本音だろうし。「君の幸せを」って逃げられるし、便利な言葉だなぁ…と思いながら歌詞を書きました。
―― また、『「君の幸せを」』には五感も繊細に表現されていますね。たとえば<あなたの横顔が窓に映っていたの>とか、<あなたの香水が私の体にも香る>とか、<髪を撫でる右手>とか。
情景を思い浮かべながら書いていると、自然と五感の部分も想像するんですよね。とくに私の場合は視覚で、表情とか仕草とか癖を細かく書きたくなります。この曲はフィクションですけど<あなたの香水が私の体にも香る>というフレーズは、みんなに共感してもらえるかなと思って入れました。
―― Uruさんはこれまで様々なラブソングを書かれてきましたが、“恋”と“愛”の違いとは、何だと思いますか?
難しいですけど、見返りを求めるかどうかだと思います。“恋”は自分が好きな分だけ返してほしいって思ったりする。でも“愛”は相手のためにわざと言わなかったりもしますよね。それで相手があとからその愛情に気づいたり。だから私的には、たとえば『「君の幸せを」』は「今 逢いに行く」がエンディングだったらいいなって思うんです。離れてから<あなた>が<私>の愛に気づいて、追いかけてくれ…って(笑)。
―― 3曲目はシングル恒例のカバーシリーズですね。シャイトープ「ランデヴー」はとくにどんなところが魅力的でしたか?
やっぱり歌詞ですね。私には書けない魅力的な表現がたくさんありましたし、耳に残るし、歌ってみたくなる。初めて聴いたときにはまず<食欲のない芋虫の右手>というフレーズが印象に残りました。あとタイトルの「ランデヴー」という言葉もなんとなくでしか意味がわかってなかったので調べました。“待ち合わせ”って意味だとわかると、より歌詞が沁みて。
―― 歌ってみて改めて刺さったフレーズもありますか?
1番のサビで<限られた未来で生きる 君に流れたらいいな>って歌っているところが、2番では<限られた未来で生きる 君に流れるか>と変わっているところですね。この<流れるか>ってどっちの意味なんだろうって。
いちばん盛り上がるところで<君に流れるか>って上がっていって、そこから<愛し合っていたんだね 間違いじゃなく本当なんだね>って入っていくところも、“そう思いたい”主人公の気持ちの強さが伝わってきます。ここがすごく好きですし、勉強になりました。
―― 4曲目「紙一重」はファンの方からも人気が高い1曲のSelf-cover ver.ですね。
「紙一重」はTVアニメ『地獄楽』のEDテーマで、とくにラストはかなり厚みのある曲ですし、これをギター1本で歌ってみたら、曲のまた違った表情を伝えられるんじゃないかなって。
―― <握る手が作る服の皺が その叫びを伝えていた>というフレーズがとくに好きです。Uruさんは大きい声じゃないSOSも見つけてくれるまなざしがある、といつも歌詞から感じます。
ありがとうございます。私自身もこのフレーズがいちばん好きなんです。まさにこのアニメの主人公が、あまり自分の感情を言葉にしないし、自分自身でも自分の感情がよくわからないところがあったりして。でも身体とか行動って素直じゃないですか。だから、知らず知らずのうちにそのひとの肩や手に力が入っているときってそれが答えなのかなって。そういう部分を歌詞で表現できたのでよかったです。
―― Uruさんは言葉の影響を本から得ることが多いとおっしゃっていましたね。最近、素敵な本との出会いはありましたか?
去年の年末ぐらいまで読んでいたのが、米澤穂信さんのオムニバス小説『可燃物』ですね。今年は湊かなえさんの『人間標本』を買ったので、これから読むのが楽しみです。あと最近、社交の場でうまくコミュニケーションを取れなかったことをめちゃくちゃ引きずっていて…。その帰り道で“コミュニケーション術”みたいな本をポチりました(笑)。
―― ちなみにどんなコミュニケーション術が書かれていたんですか?
天候の話から入って、会話が広がっていく…とか。答えが「はい」か「いいえ」で終わらない質問をする…とか。読みながら、「私は今までどうやって生きてきたんだっけ…?」みたいな気持ちになりました。自己啓発本とかも昔は読まなかったんですけど、これじゃダメだ感が年々増しているんです(笑)。
―― ありがとうございます! 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
そうですね、背中をプッシュしてくれるような曲…は、私からすごく遠いところにあると思うんですけど…(笑)、でも、「君にはできる!」みたいな音楽からいつも大きな力をもらっているので、私なりのそういうパワフルな曲を書けたらいいな、と最近は思っています。