実は抽象的な歌詞ほど自分の心情が出ていた。

―― imaseさんがとくに思い入れの強い楽曲を挙げるとすると?

やはり最初にリリースした「Have a nice day」ですかね。

―― 全19曲のなかで、意外といちばん歌詞のテンションが低いというか…。

そうなんですよ! 前に取材してくださった方もそうおっしゃっていて、「たしかに…」と思いました。初期ってとくに、抽象的に書いて自分を交えないようにしようという気持ちが強かったんです。そうしたら、「逃避行」や「Have a nice day」のように、最後の最後まで誰も救われないような歌詞が多くなっていて…(笑)。

実は抽象的な歌詞ほど自分の心情が出ていたのかなと、改めて思ったりしますね。「Have a nice day」というタイトルもとても皮肉で、こんなに誰も救われない歌詞なのに、それでいて曲はポップで可愛くて。今思うと、逆にすごく尖っている曲だなと感じますね。

―― ただ、この「Have a nice day」というタイトルが、1曲目「BONSAI」の<Have a good time>というフレーズに繋がっている気がしました。この曲が「BONSAI」のなかで救われているというか。

たしかに、おっしゃるとおりかもしれません。「BONSAI」と「Have a nice day」は対になっている曲でもあって。「BONSAI」は、初期のimase感を出そうと思って、デビュー曲である「Have a nice day」を自分なりに解釈して、今作り直したらどうなるのか、と挑戦してみたんです。

「BONSAI」の歌詞に<5畳半の部屋に うっかりと 音符が転がる>というフレーズがあるので、5畳半っぽい部屋鳴り的なミックスにしてみたり。「Have a nice day」の打ち込み感、ベッドタイムミュージック感を出してみたり。だからアルバムの入口を「BONSAI」にして出口を「Have a nice day」にしたので、これに気づいてもらえてかなり嬉しいです。

―― imaseさんの楽曲にはいろんな主人公がいますが、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

やはりどこか寂しげだったり、悲しみや不安を抱えていたり、救われない部分があったり、という部分はどの楽曲の主人公にもあるような気がします。「恋衣」も、一見ポップでキュートではあるのですが、それでもどこか不安が滲んでいますし。底抜けにハッピーな主人公はほとんどいないですね。

―― ご自身で「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

まず「恋衣」の<車窓には走る街が映るが>というフレーズですね。電車の中から窓を見ていると、街が走っているみたいだ、という情景が浮かぶ歌詞だなと。あと<肌 冬がかすめていった>も、風が吹いて、一瞬で冬を感じられるような表現ができたかなと思います。

I say bye」は<I say ない good bye>でダブルミーニング的な表現をしています。「さようならを言えない」という意味と、「愛せないからさようなら」という意味。どちらの心情も含ませることができたので好きなフレーズです。

最初のお話で触れた「Rainy Driver」はやっぱり<泣きじゃくり出した空が 針を並べて落とすような 少し冷たく響く音が 僕らを囲む>というフレーズ。情景が浮かびつつ、ふたりの関係も伝えることができました。

あとは「Happy Order?」の<最後の1時間が死ぬほど長く感じるのは お前だけじゃないから>ですね。ここはもう「みんなー!わかるでしょー!共感するでしょ!」という気持ちで書いたので(笑)。あと、マクドナルドのタイアップということで<昼まで バンズのような 布団に入って寝てたい>というフレーズなんかも、お気に入りです。

―― 「Happy Order?」はいろんな仕掛けがあるので、書いていても楽しかったのではないですか?

photo_03です。

とてもおもしろかったです。いい意味でふざけたというかコミカルな歌詞を書こうと思っていました。タイアップ楽曲なのに<しなしなのポテト>という表現も、攻めていますからね(笑)。たとえば、<もうやだって 毎日なってる 遊んで食って寝てたい それでも頼られてる自分に少し酔っている>という部分、最初は<それでもピクルスよりは存在価値がある>と書こうとしていましたし。「バイトがめんどくさい」も言いすぎかなとも思いました(笑)。

着地点として、<働きだしたらヒーローさ>や、<気づけばそんな居場所が ホーム>というフレーズも大事ですし、<部活みたいに乗り越えた バイト終わりに見せる 気になるあの子の スマイルも 僕だけの青春さ>と、アルバイト先にも青春はあるよ!というポジティブな部分も描くことができたので、この歌詞は気に入っています。アルバイト目線で歌詞を書くということもやったことがなかったので、新しいことにチャレンジできて楽しかったです。

―― X(旧Twitter)で、いかにマクドナルドに関連したワードが入っているかの答え合わせも拝見し、ビックリしました。

そうですね、ラップの部分はすごくこだわりました。期間限定のバーガーは絶対に4種類入れようと思い、<日照り たまにあっても>はてりたま、<目から鱗も 落っこちそうな>はロコモコ、<Beats君の>は月見。あとガヤ的な感じでグラコロも入っていて。わかりやすく入れているワードもあれば、ギリギリバレないように入れていたり、少しサイレントで入れたりしたワードもあって。聴いてくれるひとが少しでもハッピーになるような、全19曲の中でいちばん明るい曲ですね。

―― 歌詞を書くときに大切にされることは何ですか?

やっぱり第一に語感ですね。でも言い回しがおもしろかったり、情景がくっきりと浮かんできたり、そういう歌詞も大事にしたくて。誰でも言えることだけど、まだ誰も言っていないことを書きたいなと常に思っています。

―― imaseさんにとって、歌詞とはどんな存在のものでしょうか。

自分のなかでの優先順位はあるけれど、歌詞は楽曲を構成する上ではかなり重要なもので。聴き手によって、「歌詞がいちばん大事」という方もいるじゃないですか。それも聴き方として正しいことですし。だから音楽を楽しむ上では、リズム、メロディー、歌詞、どれも並行して大切な存在ですね。インストにはない、歌ならではのよさですね。

―― ありがとうございます!最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

かなりダークに攻めた曲とか。逆に、ものすごいアイドル寄りなキュンキュンラブリーソングとか。アイドルソングは自分が歌うより、提供したほうがいいのかなと思ったりしますが…(笑)。あとは、和の要素の強い歌詞にも挑戦してみたいです。自分のことを歌っていないからこそ、「こういう歌詞はイヤだ」とかがあまりなくて、様々なタイプのものを書いてみたいですね。


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