「車輪の歌」の歌詞を読んだときの衝撃が最近、蘇ってきて…。

―― カップリングの「Ruler」は定規・尺度という意味合いのタイトルですね。この歌もまた、「わかりあう」ことや「わかちあう」ことを、また別の角度から描いているような印象を受けました。

まさに「」と対立してしまうというか、同じテーマながらも対になるような1曲ですね。最初はもっとただれたラブソングを書こうと思っていたんです。でも、ヒロアカのカップリングとしてどうだろう、と。だったら、カップリングもヒロアカをベースに書き切ったほうがいいんじゃないかという話になったんです。それで、ヒロアカでいう敵(ヴィラン)側のニュアンスで歌詞を書いてみました。

―― なるほど…! ヴィラン側の目線として読むと、歌詞がより刺さりますね。

ヒロアカって本当にすごい作品で。「こういう過去があって、こうなった」と、ちゃんと敵にも共感できるように描かれているんですよ。だから、勧善懲悪のような感じではなく、どちらにも正義がある。カップリングではそこを意識して書きました。「蕾」で<それぞれが 違う心で 生きている>と書けたからこそ、「Ruler」では<正解は 決して ひとつじゃない どうして それが わからない?>と書けたんだと思います。

「誰しも心の強さは変わらないし、みんながみんな同じものを同じ色で見ている」と思い込んでいるひとがいる。そういうひとに対して、「自分と同じ価値観だと決めつけるなよ」というリアルな気持ちが出た歌詞ですね。僕は普段からそう感じているので。…でも共感してくれるひと、いるのだろうか。

―― 共感する方たくさんいらっしゃると思います。このSNS時代を表しているようにも感じますし。

ああ、たしかに。俺もエゴサとかしていて感じる気持ちに近いことだ。誹謗中傷に傷ついている<僕>の歌にも思えてきますね。不思議なんですけど、どうしてああいう場所で「これ嫌い」とか、言うやつがいるんですかね…。あと結局、声の大きいやつが得をする。声の小さいやつは追いやられるし、返す声も持てないひともいるし。自分と違って見えるからって、なんで干渉してこようとするんだろう、というのはテーマのひとつです。

あと、ヒロアカでいうとすごい名言があって。ヴィランが、漫画だと「“運が悪かった”なんててめェが決めるな」「これより最高な人生があんのかよ」というセリフを心で叫びながら死んでいくシーンがあるんですよ。マジでそうだなと感じました。その共感した部分も「Ruler」には表れていますね。

―― 人生そのものに当てはめても、共感できる歌詞ですね。まわりから「普通なら」とか「当たり前」とか「可哀想」とか言われて、傷つくひとも多いじゃないですか。

そう、毒親とかね。自分の子どもに向けて「あなたはどうして普通になれないの?」って言ったりする。

―― それでも<僕は「不幸」 なんかじゃない>と言い切るための強さは、どのように保てばいいのでしょう。

もう…そういうひとに干渉されない場所まで逃げる。環境を変えちゃうしかない。実はこの曲を書いているとき、知り合いがまさに毒親のことで悩んでいて、よく話を聞いていたんですよ。ずっと家族と一緒に住んでいて、最近になって毒親だと気づいたらしくて。その子、30過ぎて家出したんです。

―― 相手は変わらないから、自分が環境を変えたんですね。

そう。「逃げろ逃げろ」って言いました。仕事も辞めたんですけど、もうこれしかないんだろうなと。それこそ親とその子は物差しが違うんだろうから。同じ物差しのなかで、無理して一緒に過ごす必要はないなと本当に思いますね。そういう気持ちも含みながら書いたのが「Ruler」です。

―― 「Ruler」でとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

冒頭かな。<僕の傷口 君から見れば ただの肌色だろう 酷く爛れた 場所を平気で 踏みにじる言葉たち>というフレーズは、かなりこだわって書いたので気に入っています。

―― 普段、曲作りはどのような流れで行うのでしょうか。

レオの曲先の場合と僕の詞先の場合、両方ありますね。でもいずれにせよ、最近はかなりテーマやシチュエーションを決め切ってから書くようにしています。決めずに書き出してしまうと、やっぱり手グセが出てきてしまう部分も多いし。仮歌の韻に引っ張られて、よく使ってしまう言葉も出てくる。だから頭の使い方としては、詞先も曲先も同じなのかもしれません。

―― タイアップが関係ない場合、どんなときに歌詞を書きたくなりますか?

photo_03です。

ひとからでも本からでも、何かおもしろい言葉の刺激があったときですかね。それはタイアップ楽曲の場合も同じで。たとえば、「この1ページであの出来事を思い出した」とか、自分との共通点を見つけたり、心が動いたりしたときにそれを歌にしたくなります。だからノンタイアップのときも、タイアップ楽曲を作るときと同じことをしているのかな。その言葉に対する、仮想タイアップ曲作りをしています(笑)。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にしていることは何ですか?

詩として読めるものにすること。いや、読めるだけだと弱いな。歌詞だけでも成立して、誰かの心を動かすものにすること。これはやっと「Omoinotake」というバンド名を体現できてきたからこそ、より強く思うようになっていますね。

―― 歌詞面で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

昔、J-POPはほぼ聴いていなかったんですよ。高校でOfficial髭男dismの小笹大輔と、うちのドラゲと一緒にバンドをやっていて。当時からもう日本語詞で書いていたんですけど、とくに誰かから影響を受けたわけではなかった気がします。その頃によく読んでいた村上春樹とか、本からインスパイアされるケースが多かったかな。

あ、でも中学の頃、BUMP OF CHICKEN「車輪の唄」の歌詞を読んだのは大きかったですね。最近、初めて読んだときのあの衝撃が蘇ってきて、「今の俺がやろうとしていることはあの曲に近いのかもしれない」と思いました。あの歌詞はもはや、ひとつの道徳というか、絵本として成立しているじゃないですか。究極はああいう歌詞が書けたらいいなと思います。

―― エモアキさんにとって、歌詞とはどういう存在のものでしょうか。

歌詞は“渡しそびれた手紙”みたいなものだと思います。渡したかったけど、渡せなかった。そういうもの。今回の「蕾」の場合は“まだ渡せずにいる”という部分があるけれど。直接、言えていたら歌詞になんてしなくていいから。

―― ありがとうございます! 最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

ひとつはやはり絵本のような歌詞。あとは合唱曲とか、いつか朝ドラの主題歌を書いてみたいですね。そして『紅白歌合戦』に出続けられるようなバンドになれたらいいなと思っています。


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