―― 今回、様々な提供曲を歌ってみて、客観的に「これが私らしさなんだろうな」と感じたところはありますか?
もし「玉井詩織へのソロ楽曲を作ってください」とオーダーしていたら、そういう私らしい曲を作っていただいたんだと思います。でも今回は、むしろ「私らしさ」で世界を狭めないようにしたい、と意識していて。全曲、それぞれまったく違う雰囲気の写真と色をテーマに、楽曲作りをお願いしたんです。だから新鮮な気持ちというか、「自分と違う自分を歌えている」感覚のほうが強くて楽しかったですね。
―― もともと2022年、月ごとに撮られた12シーンの詩織さんの待受画像を毎月ファンクラブサイトで公開されていたんですよね。これはもう翌年の2023年に、その12シーンの画像をもとにソロ楽曲を毎月配信リリースしていくことを想定されていたんですか?
正直、最初の1月の写真を撮ったときには、まったく考えていませんでした。でも、その1月の写真がCDのジャケ写みたいに見えたんですよ。そこで、たとえばYOASOBIさんは、小説から曲を作られていますけれど、同じ人間を被写体としたいろんな写真から曲を作るのも新しい視点かなって思いついて。「今年は1ヶ月に1枚ずつ写真を撮るから、来年は1ヶ月に1曲ずつ曲を出せないかなぁ」と相談したんです。
―― それはワクワクしますね。
そう。自分のなかでもワクワクして、「これいいかも!」と思えるアイデアだったんです。それにレコード会社の方やマネージャーさんにも「ももクロではやったことない試みだし、新しくておもしろそうだね!」と賛同してもらえて、実現したんですよね。
―― 『colorS』というタイトルどおり、まさに色とりどりな楽曲が収録されていますね。ただ、意外と主人公像は違いすぎないというか、どこか統一性がある気がしました。下を向いているというよりは…。
たしかに。どの曲も、前を向いていて、芯が強くて、突き進んでいく力のある女性像が見えてくる感じがありますよね。それは多分、私自身が打ち合わせに加わっていたというところが影響しているんだと思います。とくに最初のほうは、写真から見えてくる女性のイメージとか、曲のテーマとかを作家さんにお話させていただいていたので。
やっぱり私自身が基本的にポジティブマインドなんですよ。だから「これはあえて落ち込む感じの曲にしたい」と思っても、最終的には前を向いて歩き出していたり。世の中のルールに不満があっても、それを破り捨てて自分を強く持って進んでいたり。強い女性像が好きなのは、どの曲にも出ちゃっていますね(笑)。
―― 9曲目「Sepia」は詩織さんが作詞を手掛けています。自分でも歌詞を書いてみよう、というのはどのタイミングで決めたのでしょうか。
まず、12ヶ月連続配信リリースが決まる前ぐらいから、自分のなかでよく考える部分があって。それは、誰もがSNSで簡単に発信できる時代だからこその、言葉の怖さとか。逆に、言葉の持つ優しさや温かさとか。たとえば、ももクロのライブで最後にひとりひとり挨拶するときの言葉選びも、より気をつけるようになっていた時期で。
そんななか12ヶ月連続で曲が出せることが決まり。言葉の大切さをより考える時期だったからこそ、自作詞で1曲は表現してみたいなと思ったんです。それは最初に伝えていました。でも、写真を見ながら「1月じゃない」「2月でもない」と、どんどん月日が過ぎてゆき…。そうやって進んでいくなかで、「9月が表現しやすいかな」と、このタイミングで書くことを決めた感じでした。
―― 9月の「Sepia」以降から、楽曲の雰囲気がより大人っぽく変わっていく印象を受けました。
まさに、12ヶ月リリースのなかのターニングポイント的な役割の曲になりましたね。わりと8月までは曲調的にも歌詞的にも明るくて前向きな楽曲が多くて。でも、9月の写真でセピアというテーマが来たとき、「色のない世界も表現してみたい」と思ったんです。
ずっとカラフルな人生もいいけど、どん底に叩きつけられるような、自分の世界の色がなくなってしまうような時期もあるはずだから。この9月のタイミングで、ゆったりバラードで、沈んだ気持ちのひとにも寄り添える楽曲も入れられたらいいなと。
―― 基本的にポジティブマインドな詩織さんが、あえて「Sepia」というテーマを選ばれたのもひとつの挑戦ですね。
そうなんです。やっぱりももクロ楽曲も含めて、私はポジティブな楽曲を歌うことが多い。でもそういう楽曲って、沈んでいるときに聴くと、「そんなうまくいかないよ…」とか思ってしまって、逆にツラかったりするじゃないですか。そういう経験は自分自身にもあるんです。
もちろん私の世間的なイメージは、すごく明るくてポジティブで、実際大まかにはそうなんですけど(笑)。ただ、そんな私でも落ち込んだりすることはあるし、カラフルだったはずの世界が沈んで見えるときもある。そういう部分をあえて出すのは恥ずかしさもあったけれど、より人間らしさというか、私自身を感じてもらえるかなと思いました。
あと、今回は写真が楽曲のテーマだったこともあって、作りやすかったです。もし「自分自身を100%出してください」と言われたら、私にはまだ難しくて。自分を出しすぎているわけではなく、写真のストーリーや主人公に寄り添ったからこそ、書けた歌詞ですね。
―― 「世界の色がなくなってしまった」主人公像はどのように広げていったのでしょうか。
作詞のためというわけではないんですけど、何年か前から私は、思ったことをスマホにメモする癖があって。それを読み返してみたら、意外と“色のない世界”に近い言葉が書いてあったんです。口から出す言葉は、ポジティブで前向きなことが多いけれど、書き留めることが、モヤモヤした気持ちのはけ口になっているのかもしれません。そういう自分のなかにある引き出しから、徐々に作っていきましたね。
―― 一見、失恋ソングのようで、主人公の<私>はすごく自身の生き方と向き合っていますね。
そうなんです。聴くひとによって、まったく違う捉え方をしてもらえたらいいなと思って、こういう歌詞にしました。たとえば<キミ>というワードで思い浮かべるのは、ひとでもいいし、夢でもいいし、趣味でもいいし、推していたアイドルでもいい。そういう自分にとって大切だった<キミ>がなくなってしまって、世界が輝いて見えなくなったとき、聴いてほしいですね。
―― <キミ>によって、最後の<まっさらな 心のパレットに 色をくれる いつかのキミと 描きたい>というフレーズの響き方も変わりますね。すごく切なくもなれば、ポジティブにもなる。
はい。もしかしたら同じひとじゃなくて“新しい誰か”が当てはまるのかもしれないし。でも、最終的にはちょっと前向きにしたくなっちゃうのが、やっぱり私だなと。
―― <涙のあとには 虹が 架かるって きっと 笑うから>と、色のない世界に最後は虹が架かっていますものね。
架けたくなっちゃいました(笑)。あえて最後の最後まで暗い曲もいいかなとも思ったんですけど、私らしさが出た終わり方ですね。