好き、好き、好きだよ。月より届かない、
ずき、ずき、痛いよ。過ぎても痛いよ。
好き、好き、好きだよ。月より届かない、ムーンライトリバース 瞼の裏月にこだました痛み
笑えない歌 君の容が浮かぶほどに月を見たもっと歌詞を見る
―― ほのかさんには、歌ネットの「今日のうた」で歌詞エッセイを執筆いただいたこともありますね。昔から、書くことは得意だったのですか?
子どもの頃から、何かを表現することが好きでしたね。文章を書くという形もそうですし、絵を描いたり、自分なりのダンスをしたり。あと、自分と誰かのコミュニケーションのひとつになるようにと思いながら、物語をよく作っていました。
―― 性格的にはどんなお子さんだったのでしょうか。
まわりからよく言われていたのは、「ずっとすごくニコニコしているね~」って(笑)。友だちのお母さんとかにも褒められていました。あとは「優しいね」とか。それにお喋りなほうではあったんですけど。
思春期の少し前、小学2年生で転校したんです。そこで初めて“今まで当たり前だったものがない”環境に身を置く、という経験をして。コミュニケーションに対する感覚がガラッと変わった気がします。言葉にするのって難しいなって。今考えると、それが自分にとっての大きな転機だったのかもしれません。
―― では、いちばん最初に音楽に心を動かされた記憶というと、何が浮かびますか?
今、一瞬でパッと浮かんだのは、父親の姿ですね。父はもともとバンドをやっていまして。私が3歳のとき、「ライブハウスに行ってみよう」ということになり、連れられて行ったんです。父は演奏をするので、私は野放しだったんですけど(笑)。隠れて、キラキラしているステージを観ていて。普段とはまた違った輝き方をしている父の背中が、すごく印象的だったのを覚えています。だから自分も自然と、音楽の道に進んでいった気がしますね。
―― ほのかさんが最初に書いた歌詞って覚えていますか?
少し前に、中学時代の友だちと話す機会があったんですね。そのとき、「ほのかはよく授業中にポエムを書いていたよね。やっぱりあの頃から歌詞を書こうとしていたんだね」と言われて。でも私は無意識に書いていたので、逆に「あ、そうだったんだ!」という気づきになりました。だから中学時代の授業中に書いていたものが、最初の歌詞らしきものだと思います。
―― 当時はどんなことを書いていたのでしょうか。
私はすごく少女漫画が好きで。絵としても、文章としても、芸術としても、初めて自分からおもしろいとおもったものが少女漫画だったんですね。だからそういうニュアンスの、胸キュン系のポエムを書くことが多かったですね。でもどこか、少女漫画にはないような暗さもあって、今の歌詞の片鱗があったと思います(笑)。
―― 歌詞面で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?
歌詞のみならず、すごく好きなアーティストは、People In The Boxさん。いろんな面で無意識に影響されていると思います。ただ、実は私、音楽を聴くときあまり歌詞に注目してこなくて。歌詞は言葉であると認識したのが、本当に最近のことなんですよ。
―― 歌詞に注目されるようになったのが最近というのは意外です。ご自身のなかで、歌詞に対する気持ちが変わったきっかけがあったのでしょうか。
多分、私にとってずっと第一言語は音楽だったんですよ。そして、第二言語が日本語だった。そのことに気づきはじめたのが、2022年にリリースした前作アルバム『Cとし生けるもの』を作っているときぐらいですかね。それによって、今までは音楽を音だけで捉えていたけど、第二言語の日本語というものも意識して聴けるようになっていったというか。本来、私が作っているものって、そういう総合的なよさがあるんだと。
―― なぜ前作アルバムのタイミングで気づいたんですかね。
うーん、なんでだろう。私の作曲って、0から1にする方法はずっと変わらないんですけど、その1を100にするまでの方法を曲ごとに変えているんですよ。そっちのほうがおもしろいので。そして2022年のタイミングでは、「音と言葉の要素をちゃんとわけてみよう」と実験してみた。その試みのなかでたまたま気づいたんだと思います。解剖していくなかで、「あ、音楽に言葉を使っている」という気持ちが新鮮で。
―― 今作『kirin』を制作するなかでも、実験や新たな発見はありましたか?
今までは“無意識”をすごく信じていた部分があるんですね。だけど『kirin』では、リーガルリリーらしさとか、私らしさとかを一度、疑ってみたくなって。その理由としてはやっぱり、今年の春にバンドメンバーのゆきやま(Dr.)が抜けることになって、いろんな当たり前が崩れたことが大きいと思います。だからこそ、当たり前だったことを改めて考えるきっかけになった。その結果、自分の音楽の本質により近づいた感覚があります。
―― その本質とは言語化するとどういったものでしょう。
いちばん最近作った楽曲であり、いちばん今の私のマインドに近いのが、アルバム1曲目「天きりん」なんですけど、この歌詞に書いたことが本質に近いですね。空を夢見ていて、サビで歌っているように<どこにも行けないここから出してくれ 出してくれよ>と強く思っている。だけど同時に、どこかこの<アンダーグラウンド>が恋しいし、<地上に立っている>この地面が恋しい。そういう気持ちが詰まっていて。
これは『kirin』というアルバムタイトルにも繋がるのですが、二十何年生きてきて、バンド活動も十年やって、もう自分の頭のなかでうわーっといろんな想像を張り巡らせれば、どこにでも行けてしまうんです。でも、やっぱり私にとって大事だなと思ったのは、たとえば、風がそよいで木々が揺れる音がして、そこに自分も携わっていること。そういう“一緒に今を動かしている感覚”で。それは忘れがちになってしまう。だからこそ、アルバムやライブで、身体の筋肉を動かして、音楽を表現し続けていきたいというのが今の私の音楽の本質ですかね。
―― リーガルリリーさんの楽曲は、どこか絵本のようなファンタジックな世界観が印象的ですが、非現実すぎないというか、日常のなかに空想があるところが魅力だと感じていて。それはほのかさんが「地上に立っている」ことや「自分も携わっていること」を大事になさっているからこそなのだと、今お話を伺いながら思いました。
ありがとうございます。まさに今回、アルバムタイトルに“きりん”を選んだのも、ただ高い景色を見るのではなく、地に足をつけて歩く哺乳類のなかで、いちばん身長が高く宇宙に近い動物の視点で物事を見る、というメッセージを込めたかったからなんです。さらに肝は、地に足をつけて“行動すること”なんですよね。ひとつ踏み出すごとに、力が要る。でもその踏ん張りが強いほど、遠くへ行ける。そういう面も大事にしたいなと思っています。