La! Lalalala! Lalalala! それを忘れないでね ずっと覚えていてねもっと歌詞を見る
―― デビュー35周年イヤー& Buppu Label(ブップレーベル) 設立15周年を迎えるということで、改めて槇原さんの歌詞の軌跡についてもお伺いしていきたいと思います。まず、子どもの頃ってポエムのようなものは書かれていましたか?
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まったく書いていないんですよ。国語の授業が得意分野に入るかなぁ…という程度。自分の思いを言葉にしたいという意識もありませんでした。曲を作るようになって初めて、何か歌詞を乗せなきゃいけないなと書くようになった感じです。それでも、最初はどちらかというと歌詞ってないがしろにしていたというか。いろんな楽曲の歌詞の寄せ集めをして、「こんな感じかな」と作っていましたね。
―― 槇原さんには以前、『言葉の達人』にもご登場いただきました。曲作りのきっかけは「13歳の時、坂本龍一さんのラジオ番組の企画にデモテープを出したくて」というところだったんですよね。
はい。まさに最近その歌詞を振り返って読む機会があったんですけど、とってもひどい(笑)。「HALF」というタイトルで、“半分大人で半分子どもの自分の気持ち”みたいなものを書いていて。もう恥ずかしくてどんなフレーズがあったかも言えないですね。歌詞に英語を入れることの良し悪しも考えずに書いていました。曲を作り始めた中学1年生の頃から、高校2年生ぐらいまでは、そういうほにゃ~っとした感じ。ニュアンス作詞でした。
―― そんなご自身の歌詞が変化したタイミングというと?
高校2年生のとき、CBSソニー・オーディションというものがあって。それに出したら、僕が尊敬しているアーティストである大江千里さんのマネージャーさんに目を留めていただいたんですね。そこから僕の歌を見てくださる期間がありまして、歌詞についてもかなりいろいろ教わりました。たとえば、「“優しげ”という表現は変えたほうがいい」とか。つまり、街には溢れているけれど、本来は正しくないような言葉の修正を。
―― 日本語の基礎から習っていったのですね。
そう、「勉強のために本を読みなさい」って、村上春樹さんとか、ウィリアム・サローヤンさんとか、教えていただいて。「伝えたいことをもっと明確にしなさい」とも言われました。当時、YMOも好きだったけど、オフコースのような歌ものも好きで、ハイブリッドな歌を作りたい気持ちもあって。だから、指導をわりと素直に、「わかりました!」と受け入れて書くようになった。その時期のおかげで歌詞が変わっていきましたね。
―― 1ファンからすると、もうデビュー当時から槇原さんの歌詞の核はできあがっていた気がします。まず、ちょっとした日常の出来事から、大切な気づきを発見する天才だなと。
いやいやいや! でも正直、そういう視点は子どもの頃からあったかもしれません。僕はよく親戚に「嬉しがり」って言われていたんです。関西弁だと「いちびり」とも言います。何かを見つけては、わーわー騒いでいることをよく指摘されていました(笑)。あまりひとが見ていないようなところを見て、新しい発見をしては喜んでいたんだと思いますね。しかもこの性質、如実に父親譲りであることが、最近わかりまして。
―― そうなんですか! お父さまも発見することがお好きだったのですか?
父親は自身のことも含めて人間が好き。いや、森羅万象が好きなんですよね。そして記憶力も異常だと思います。「小学生のとき、〇〇という友だちがいて」みたいな話をよくするんですけど、その子が何をしたかとか、自分がそれをどう思ったかとか、いまだに鮮明に覚えているわけです。それを聞きながら僕はゾッとしました(笑)。でも一方で、「いや、僕も似ているな」と。見て、感じて、覚えておく、みたいなところがありますね。
―― 槇原さんのお父さま、お会いしてみたいですねぇ。すごく優しそうです。
優しいは優しいんですけど、よく喋りますよー。そして、何を考えているかわからない感じでおもしろい。突然、泣き出したりするんです。それで僕が、「なんで泣いているの?」と訊いたら、「~がこうなったらと想像したら、泣けてきたんや!」とか言って(笑)。想像・空想ばかりしています。でもそこも僕、受け継いでいるんですよね。初めてこんなこと話したので、ちょっと嬉しいです。ありがとうございます。
―― 槇原さんは2019年の取材で、シンガーソングライターとしてのひとつの大きな転機となる楽曲として「太陽」を挙げてくださいました。「恋愛以外の物事をどうポップスに落とし込んでいくかという楽しみが始まった」と。35周年を迎えた今、ご自身にさらなるアップデートを感じる面はありますか?
「恋愛以外の独自の素材を歌詞にしたい」みたいな好奇心はその後、20年ほど続いたんですね。とくにBuppu Labelを設立したタイミングの楽曲たちは、そういう要素が色濃い。でも、それが2021年にアルバム『宜候』を作ったとき、「いよいよハイブリッドでやっていこうかな」という意識に変わっていった感覚があります。何でも歌ってみる時期を経て、これからは“Something About Love”的なものを書いていきたいなと。
というのも、デビュー当時に聴いてくれていたファンの方々が、僕と一緒に歳を重ねて、今はお子さんと一緒にライブに来てくださったりするわけです。下手したら三世代とかで。つまりそれだけいろんな世代が聴いてくださっている。だから、まぁ若い歌は若いひとたちに任せようという気持ちもあるのだけれど、ちょっと忘れかけていた若い頃の自分の経験や気持ちを引っ張り出してきて、僕なりのラブソングを書いてみたり。
そう考えると、2019年のアルバム『Design & Reason』あたりから変化は始まっていたのかな。「ただただ」とか。人生を歌いながら、他者との関わりを描いていくというか。手段が増えたということだと思います。あと、僕は言葉数が多いので、歌詞減らそうキャンペーン中で(笑)。今までは、「絶対にこの景色を見せたい」という書き方をしていたんですけど、もう少し俳句的にして、行間をみなさんの想像にお任せしちゃう歌詞もいいなって。
―― 抽象的な描写にするというか。
そうそう。僕はよく美術展に行くんですけど、最近は具象画も抽象画もどちらも好きなんですよ。抽象画って昔はなんだかよくわかりませんでした。でも今はそこからエネルギーを感じて、「よくわからないけれど、何かが伝わるものも素敵だよね」と思うようになったんです。それもここ5~6年の大きな変化で、歌詞を書くときに意識していますね。とはいえまだ書きすぎてしまうから、次のアルバムなんかではさらに言葉を減らせたらなと。
―― その挑戦の片鱗が、最新曲「You Are the Inspiration」には表れている気がします。
まさにそうなんですよ。実験的にグッと言葉を減らしていて。余分なものを取っ払って取っ払って書きました。
―― 槇原さんは詞先の曲作りで有名ですが、「You Are the Inspiration」はインストゥルメンタルが元になっているんですよね。曲先にすることによって、歌詞の長さも変わってくるのでしょうか。
あ! そうか! すごい、おっしゃるとおり。曲先なら短くできる気がする。基本的なことに気づかなかった(笑)。この歌は完全な曲先ではなく、もともと『槇原敬之・Sweet Inspiration』という僕のラジオ番組のエンディングテーマとして作ったインストゥルメンタルで。まわりのみんなから、「これにメロディーつけたらよくない?」みたいな話があったんですけど、「そのうちね~」とか思っていたんです。
そうしたら、今回『Buppu Label 15th Anniversary “Showcase!”』を出すにあたり、うちのスタッフから、「いや、新曲もあったほうがいいでしょう」という提案があって。じゃあこれで1曲作ろうと、メロディーと歌詞を新たにつけたんです。そのなかでメインテーマのメロディーだけ決まっていたので、部分的に曲先なんですよね。だからこの歌は言葉数を減らせたのかもしれないな。でも、ほとんど<Lalalala>だ(笑)。
―― 完全な詞先だったら、生まれなかった<Lalalala>かもしれないですね。
そうだよね。曲先、リハビリ程度に挑戦していこうと思っています。今まで他のアーティストの方々に、「詞先はいいよ~」って散々言ってきたんですね。でも、みんなが詞先になろうとしているとき、今度は僕が曲先になるのもいいかもしれないな(笑)。そうしたら楽曲ができあがるのもすごく早くなると思う。
―― 早くなるんですか?
うーん、多分。歌詞が出てくるのを待って、曲を書くのはかなり時間がかかるから。先に楽しいことをやりたくなっちゃっているんだよなぁ…。
―― 槇原さん、作詞より作曲のほうが楽しいですか?
俄然、作曲のほうが楽しい。歌詞を書くのは孤独です。黙々としているし、自分のことを追い込んじゃうし、ゲッソリします。自分を管理するもうひとりの自分が書く感覚で、がんじがらめ。作曲はもっとフィジカルで、メロディーをつけるという行為自体が明るいんですよね。スピードもかなり違います。曲を作るのは1日。歌詞は何週間とかかかる。だからこそ、歌ネットさんがこうして歌詞を取り上げてくださると、報われる気持ちです。
―― 新曲「You Are the Inspiration」の歌詞もグッときました。いろんなひとの人生が見えてきますね。
ありがとうございます。みなさん、「自分という存在はアーティストとはまったくかけ離れている」と思いがちなんですけど、そうじゃないんです。同じなんです。むしろ、「アーティストにインスピレーションを与えているのはあなたたちだ」と言いたかった。そして<直向きに生きていることが 思いがけず誰かの希望になっている>と気づいてほしかった。「私なんて」と言っている場合じゃないですよ。あなたが与えてくれているんです。と、そんなことをちゃんと伝えたくて作った歌ですね。