LIVE REPORT

THE PINBALLS ライヴレポート

THE PINBALLS ライヴレポート

【THE PINBALLS ライヴレポート】 『THE PINBALLS Live Tour 2021 “millions of memories”』 2021年4月8日 at 渋谷TSUTAYA O-EAST

2021年04月08日@渋谷TSUTAYA O-EAST

撮影:白石達也/取材:山口智男

2021.04.13

開演時間の午後7時きっかりに古川貴之(Vo&Gu)による言葉にならない雄叫びからライヴは始まった。「ニードルノット」からダンサブルかつタイトなビートを持つロックナンバーをたたみかけ、爆音で圧倒する古川らステージの4人に必死に食らいついていこうと、マスクをしたまま声を出せない観客たちは、それならと一心不乱に手を振った。そして、その光景を目の当たりにした古川は満面の笑みを浮かべたのだった。

昨年12月にリリースしたメジャー2ndフルアルバム『millions of oblivion』を引っ提げ、2月から全国各地を回った『THE PINBALLS Live Tour 2021 “millions of memories”』のファイナル公演。この日、THE PINBALLSはその『millions of oblivion』の全10曲を軸にインディーズデビューの頃にまで遡った新旧のレパートリーを計23曲披露。曲間のMCで古川が幾度となく”ゼロになって”という言葉を口にしたように2時間におよぶ熱演が印象づけたのは、ツアーの終わりが新たな始まりになったということだった。

“ツアーがいったん終わるのは寂しいけど”(古川)と言いながら、バンドがそこに新たな始まりの可能性を見出していたのは、新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドラインを遵守した今回のツアーが、実はバンドにとって試練だったことが大いに関係しているのだろう。歓声やシンガロングが客席から聞こえてこないことに加え、表情すらマスクでよく分からない観客に向き合わなければならなかったが、ライヴを重ねながらそんな試練を乗り越え、ついにツアー・ファイナルに辿りついたとき、バンドの中に芽生えていたのは、古川が語った“このツアーを通して、俺たちも、みんな(=観客)も強くなった”という気持ちだった。

なるほど。この日、THE PINBALLSが終始鳴らしていた爆音は、その自信の表れだったわけだ。The Rolling Stones風のルースなギターリフが新鮮に聴こえた「放浪のマチルダ」を挟み、スタートダッシュをキメた序盤の流れを変え、古川が奏でるギターのアルペジオでつなげた「ストレリチアと僕の家」からのブロックでは、テンポを落とした演奏でぐっと深いところに観客を誘った「花いづる森」、ポップでダンサブルな「(baby I’m sorry) what you want」、モータウンビートが跳ねる明るい「SLOW TRAIN」とつなげ、“ロックンロールだけが俺たちじゃない”と言わんばかりに、じっくりと聴かせる曲の魅力もアピールする。

フリーキーなプレイで存在感を際立たせる中屋智裕(Gu)、無骨にベースを唸らせながら、客席を煽る森下拓貴(Ba)、バンドの美学を象徴するようにタイトなプレイに徹する石川 天(Dr)。3人のキャラクターもこれまで以上にはっきりとしてきた。ボブ・ディランを思わせるフォークロック・ナンバー「惑星の子供たち」では石原が前奏のブルースハープを奏でた。最初、自らで演奏しようと思っていたブルースハープを石川に任せた理由を、“今回のツアーでツアーの楽しさをもう一度感じられたのはメンバーとお客さんがいてくれたから”と古川は語ったが、バンドが持つ一心同体という意識は、ここに来てさらに強いものになってきたことがうかがえる。その意味では、日頃、ステージでほとんど声を発しない中屋がこの日、多くの曲でギターを弾きながら、古川と一緒に歌っていた姿がとても印象的だった。“マイクもないのに”とメンバーたちから、中屋はそのことを冷やかされていたが、バンドはそういうことが大事なんだと思う。もちろんそれを分かった上で、メンバーたちは冷やかしていたのだと思うが、そんなところにもさらに強くなったTHE PINBALLSの姿を、筆者は見出したのだった。

観客を踊らせた「惑星の子供たち」から「統治せよ支配せよ」、さらにそこから駆け抜けるようにガレージロックバンドとしての圧倒的な力を見せつけると、“本当は少し怖かった。でも、みんなのおかげでひとつ先が見えた。限界が越えられた気がする。それはひとりではできなかった。ありがとう!”と古川は胸の内を曝け出す。そして、“みんなを振り向かせたい。またゼロからよろしくお願いします!”と本編最後の「ミリオンダラーベイビー」を演奏する前に心機一転の気持ちを語りながら、あふれる思いを止めることができなかったのだろう。

観客のアンコールに応え、ステージに戻ってきた古川は“15年、同じメンバーでやってきたけど、ゼロから新たな気持ちで、みんなに歓んでもらえるようなことをしていきたい”と改めて観客に誓ったのだった。そして、よっぽど名残惜しかったのか、「オブリビオン」「毒蛇のロックンロール」「片目のウィリー」に加え、予定になかったデビュー曲の「アンテナ」をダブルアンコールとして最後の最後に披露。ダメ押しで観客を歓ばせると、ツアー・ファイナルにふさわしいクライマックスを観客とともに作り上げた。

今年21年は結成15周年。この先、そのアニバーサリーに相応しい展開が待っているに違いない。試練を乗り越え、バンドに取り組む気持ちを新たにしたTHE PINBALLの活躍に大いに期待している。

撮影:白石達也/取材:山口智男

THE PINBALLS

ザ・ピンボールズ:2006年埼玉で結成された4人組ロックバンド。『SUMMER SONIC』など数々のフェスやイベントにも出演し、アニメ『ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン』第3話エンディングテーマ『劇場支配人のテーマ』が大きな話題に。17 年12 月のミニアルバム『NUMBER SEVEN』をもってメジャー進出。収録曲「七転八倒のブルース」はTV アニメ『伊藤潤二『コレクション』オープニングテーマとして抜擢。18年11月には待望のメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』をリリース。20年12月に満を持してメジャー2ndフルアルバム『millions of oblivion』をリリース。21年2月よりワンマンツアー『millions of memories』を敢行する。ガレージともロックンロールとも形容しがたい独自ロックサウンド、荒々しくも歌心あふれる古川貴之のハスキーヴォイスとキャッチーで勢いのあるメロディー、物語のようなファンタジックで印象的な詩世界でロックシーンを揺らす。