LIVE REPORT

宇多田ヒカル ライヴレポート

宇多田ヒカル ライヴレポート

【宇多田ヒカル ライヴレポート】 『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios』 2022年1月19日 at 配信ライヴ

2022年01月19日@配信ライヴ

取材:田山雄士

2022.01.23

宇多田ヒカルのスタジオライヴ『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios』が、彼女の誕生日である1月19日(水)に配信された。当日はその素晴らしい演奏にチケットを購入した約5万人のファンが熱狂。国内外から絶賛の声があふれ、Twitterでもハッシュタグ“#LSAS2022”がトレンド入りするなど、大盛況のうちに幕を閉じた。

宇多田にとって自身初となる有料配信スタジオライヴ。映像はイギリスの北ロンドンにある名門レコーディングスタジオ・Air Studiosで事前収録したもので、ミュージシャンは2018年のツアーでもバンマスを務めたJodi Milliner(Ba)をはじめ、Earl Harvin(Dr)、Henry Bowers-Broadbent(Key&Gu)、Ruth O'Mahony Brady(Key)、Will Fry(Perc)、Soweto Kinch(Sax)、Reuben James(Key)といった気鋭の面々が参加。映像監督をDavid Barnardが、録音とミックスをSteve Fitzmauriceが担当した。

前作の『初恋』(2018年6月発表)以来、約3年7カ月振り8枚目となるニューアルバム『BADモード』のデジタル先行リリース日に配信され、同作の収録曲をライヴパフォーマンスで初披露するというコンセプトを掲げた本公演は、タイトル曲の「BADモード」からスタート。演奏が始まるなりスーッと曲に入り込み、グルーブに澱みなく乗って颯爽と歌い出す、宇多田の驚異的な集中力に早くも息を呑む。冒頭のシーンではやや緊張した表情も覗かせ、場の空気を和らげようと“キー、キー、キー”と動物の鳴きまねみたいなおどけた声でバンドメンバーを笑わせていた彼女だったが、一瞬にしてヴォーカリストの顔に変わる感じが堪らない。

また、サックスにパーカッションなど、曲を彩る楽器の鳴りが細かく確認できるカメラワークと映像美も嬉しい。その点では、ソニーのカメラであるVENICEおよびFX3が大活躍していた。緻密に構築された原曲を人力で表現するさまにもめちゃくちゃワクワクさせられたし、もちろん音質も文句なし。ヘッドホンやイヤホンで聴けば、まるでAir Studiosにいるかのような感覚に包まれる。

続いては、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』テーマソング「One Last Kiss」。崇高なムードがグッと深まり、この時点でもう完全にうっとりしてしまっていた視聴者がきっと多いことだろう。シンセやドラムの音がライヴだと一段と生々しく響き、間奏で観られる宇多田のパッド操作も新鮮だ。さらに、ドラマ『最愛』の主題歌「君に夢中」、サントリー天然水CMソング「誰にも言わない」など、話題のナンバーが次々に繰り出されていく。

ハイ&ローを巧みに歌い分ける宇多田のヴォーカルとその佇まい、楽曲のメッセージをしっかりと汲み取って呼応するプレイヤーたちのピュアな姿勢や表情、曲間での親密さが窺えるコミュニケーション。それらを捉えた映像があまりに美しくて、スタジオライヴなのに一本の映画を観ているみたいな気分にさえなってくる。彼女がメンバーと時折ホッと喜び合う感じは、俳優が役を演じ切って無事にOKをもらった場面のよう。

その後も、歌の美しい発音とタイトなリズムが際立つ英語詞曲「Find Love」、《近すぎて言えなかった》《聞きたくて聞けなかった》と切ない胸の内を綴った「Time」、《私の価値がわからないような 人に大事にされても無駄》《自分のことを癒せるのは 自分だけだと気づいたから》と全てを悟ったような器量を持つ「PINK BLOOD」などを、意識の底にあるノスタルジックな情景が似合う音とともに凛々しく届けた宇多田。特に声の存在感が圧倒的で、心地良く浸っているうちについつい涙が出てきてしまう時間だった。

終盤にはUtada名義の楽曲「Hotel Lobby」「About Me」(いずれも2004年発表のアルバム『Exodus』に収録)まで飛び出し、まさかのマニアックな選曲と大胆なアレンジぶりにファンは歓喜。併せて、アコギの調べからアンサンブルが劇的に広がっていく「Beautiful World (Da Capo Version)」も素晴らしかった。

全11曲を演奏し、最後は宇多田がカメラの前へ移動。観てくれた視聴者に“今日は本当に時間をありがとう。私たちと同じくらい楽しんでもらえていたら嬉しいし、特別な空間を初めて共有できたと思います。みんな元気でまた会いましょう!”と、英語と日本語で感謝の言葉を伝え、初の試みとなる配信スタジオライヴは終了した。

きわめてシンプルな環境や衣装ながら、ハイクオリティーなパフォーマンスでかけがえのないショーに昇華させてしまう点がさすが。新曲を歌っている姿を初めて観られるという興奮もあり、膨大な情報量と感性が詰まった瞬間の連続にひたすら惹きつけられる、実に濃厚な一時間だった。なお、2月23日にパッケージリリースされるアルバム『BADモード』の初回生産限定盤に付属するDVDおよびBlu-rayには、今回のスタジオライヴの模様が収められるので、何度でも追体験して楽しんでみてほしい。

取材:田山雄士

宇多田ヒカル

ウタダヒカル:1983年1月19日生まれのシンガーソングライター。98年12月発表のデビューシングル「Automatic/time will tell」はダブルミリオンセールスを記録し、そのわずか数カ月後にリリースされた1stアルバム『First Love』はCDセールス日本記録を樹立。未だその記録は破られていない。10年に“人間活動”を宣言し一時活動休止期間に入ったが、16年4月に配信シングル「花束を君に」「真夏の通り雨」のリリースによってアーティスト活動を本格始動し、同年9月に発表した6枚目のオリジナルアルバム『Fantôme』は自身初のオリコン4週連続1位や全米のiTunesで3位にランクイン、CD、デジタルあわせミリオンセールスを達成するなど、国内外から高い評価を受けた。17年EPICレコードジャパンに移籍。18年にデビュー20周年を迎え、オリジナルアルバム『初恋』のヒットや久々のコンサートツアーなどで全国のファンが沸いた。

SET LIST 曲名をクリックすると歌詞が表示されます。試聴はライブ音源ではありません。

  1. 8

    8. Face My Fears (English Version)

  2. 9

    9. Hotel Lobby

  3. 11

    11. About Me

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