LIVE REPORT

水瀬いのり ライヴレポート

水瀬いのり ライヴレポート

【水瀬いのり ライヴレポート】 『Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART』 2023年10月29日 at ぴあアリーナMM

2023年10月29日@ぴあアリーナMM

撮影: 加藤アラタ(Kato Arata)、三浦一喜(Miura Kazuki)/取材:榑林史章

2023.11.16

水瀬いのりのツアー『Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART』を締め括る、最終公演が10月29日に神奈川・ぴあアリーナMMで開催された。

ライヴの幕が上がると、いきなり最新楽曲「スクラップアート」を繰り出して観客を驚かせた。ステージの背面を覆うLEDパネルには、シングル「スクラップアート」のビジュアルを思わせるデジタル調の夜のビル群が全面に映し出され、その中で衣装のフードを被って歌った彼女。ハイスピードでトリッキーなサウンドもあいまって「スクラップアート」の独特の世界に一気に引き込まれた。

“自分にとって実りを感じたツアー。その集大成、ゴールとしてこの時間を楽しみたい。皆さんも自分らしく楽しんでほしい”と水瀬。ツアータイトルの“SCRAP ART”は廃材芸術のことで、“捨ててしまうものから作るアートということで、これを日常生活に当てはめた時、諦めたり立ち止まったりしても、そこから再生したりそれを経験したから輝けるものがあるということにつながるんじゃないかと思ってつけました”と、ツアータイトルに込めたメッセージを語った。

このライヴは歌詞の意味やつながりを意識しながらひとつのステージとして表現したこれまでのライヴとは異なり、楽曲ごとの世界観にスポットを当てたものになった。例えば、水瀬が生み出したくらげのキャラクター“くらり”を題材に彼女自身が作詞を手がけた「くらりのうた」では、バックに水中のあぶくのような映像が映し出され、観客がグッズの“くらりライトチャーム”を点灯して揺らすことで、会場が丸ごとの海の中に沈んで、くらりと一緒に波に揺られているような雰囲気に。水瀬もくらりをイメージした水色で水玉模様のフワフワした衣装を身にまとい、くらりになりきって歌っている姿が印象的だった。

前回のシングル表題曲「アイオライト」を披露した際は、アイオライトカラーのエレガントな衣装に身を包み、椅子に座ってパフォーマンスを披露。その動きが紗幕に映し出された映像とシンクロするという演出で、操り人形のように動くダンスが話題となったMVの世界観をさらに拡張して魅せるといったものになった。楽曲の持つミステリアスでダークな世界観とマッチし、水瀬のこれまでとは異なる魅力が輝いていた。

また、「Well Wishing Word」「While We Walk」「Winter Wonder Wander」を連続で歌ったゾーンは、このライヴの観どころのひとつになった。同3曲は「スクラップアート」を提供した栁舘周平の作詞・作曲・編曲による通称“WWWシリーズ”と呼ばれる3部作で、どの曲もどこか胸を締めつけるようなエモーショナルさと未来に向けた明るい希望が歌われ、さまざまなアイデアが詰め込まれたファンタジックなサウンドはまさしく栁舘マジック。バックにはおとぎ話から飛び出したような街が映し出され、楽曲が進むごとに絵本のページがめくられていくような趣向となっており、水瀬はその中の主人公を生き生きと演じるように歌う、まさしくこの3曲でひとつのストーリーを紡ぎ出した。

本公演では他にも4thアルバム『glow』からUNISON SQUARE GARDENの田淵智也が提供した「僕らだけの鼓動」、2ndアルバム『BLUE COMPASS』から疾走感溢れる「identity」や、“せーの”のかけ声でみんなとサビを歌った「Million Futures」、3rdアルバム『Catch the Rainbow!』から拳を振り上げて歌った「約束のアステリズム」などを披露。衣装も今っぽいダメージデニム調のへそ出し衣装や赤いジャケットにネクタイで、ヘアスタイルもカラフルなエクステをつけたりと、実に多彩な表情を見せてくれた。

そして、幕間の映像コーナーでは公演ごとにさまざまなアートに挑戦し、ファイナルではくらりと仲間たちを描いた絵画を披露。それは謎解きになっており、6公演で披露したアートの題材から文字をつなぎ合わせると“スクラップアート”になるという仕掛けになっていた。

“私自身すごく楽しくステージに立てたので、それが自分にとって一番のご褒美かなと思っています”と本編ラストナンバーの前に想いを語った水瀬。本編ラストの「僕らは今」では彼女が“こうなったらいいな”と夢にまで見ていた景色が現実のものとなり、まさしくご褒美の一曲となった。同曲のMVはライヴを楽しむ多くのファンの画像をバックに映しながらバンドとともにライヴをするという、コロナ禍のライヴ事情や声出しができなかったこの4年を象徴した映像で、それを“みなさんと一緒に完成させたい”と水瀬。ピアノ一本で高らかに歌い上げた序盤、この4年に想いを巡らせるように情感たっぷりに歌い上げると、そこから一転、豪快にバンドサウンドが鳴り響き、かけ声で会場が一斉に沸く。そんなファンの歓声やかけ声もサウンドのひとつとなり、ファンとは一心同体であるという彼女の想いを実感させる瞬間になった。

アンコールでは“くらり型のフロート”に乗って、ファンに手を振ったりハートを送ったりしながら「Morning Prism」などを歌った水瀬。「Ready Steady Go!」ではタオルを回し、観客がウェーブするなど会場が一体に。Wアンコールでは“大きい会場だけど、みんなが近くて温かくて、安心して歌うことができた。みんなも“チームいのり”のメンバー。チームが、弱音を吐ける場所になっていることがすごく嬉しくて...”としゃべりながら、あふれそうになる涙を必死に堪える場面も。“最後にこの曲を...歌えるのでしょうか、私は”と言いながら歌った「Catch the Rainbow!」では、会場にチームの大合唱が響き渡り、“忘れられないツアーになりました。ありがとう、大好きだよ!”と最後に、みんなに声をかけた。

今やその声を聞かない日はないというくらい、多くの作品で声優やナレーターとして活躍する水瀬いのり。そんな彼女のもうひとつの側面がアーティストであり、本公演は歌声はもちろんパフォーマンスや演出など完成度が高く、アーティストとしてのセンスと才能を十二分に発揮したものとなった。今ライヴを観ておくべき声優アーティスト、それが水瀬いのり。アリーナの次は? さらなるステージへの期待が高まるものとなった。

撮影: 加藤アラタ(Kato Arata)、三浦一喜(Miura Kazuki)/取材:榑林史章

水瀬いのり

ミナセイノリ:2010年に『世紀末オカルト学院』(岡本あかり役)で声優デビュー。中学生の時、オーディション『アニストテレス』に参加し、第1回目のグランプリを受賞。その後、2010年にTVアニメ『世紀末オカルト学院』(岡本あかり役)で声優デビューを果たす。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に登場するアイドルグループのアメ横女学園芸能コースの成田りな役で女優に挑戦するなど、マルチに活躍の場を広げる中、2013年に出演したTVアニメ『恋愛ラボ』をきっかけに演技力の高さや役幅の広さが高く評価されるようになり、10代にして話題作のメインヒロイン役に次々と抜擢されるようになる。そして、キャラクターソングやアニメ・ゲームイベントでのパフォーマンスで、ジャンルを選ばずあらゆる楽曲を歌いこなす歌唱力が多くのアニメ/声優ファンを魅了し、歌手としての活動にも大きな期待が寄せられていた中、15年12月2日、二十歳の誕生日迎えた記念すべき日に、シングル「夢のつぼみ」で待望の歌手デビューを果たす。22年9月~10月に開催したライヴツアー『Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow』は全公演チケットソールドアウト。ツアーファイナルには自身3度目となる横浜アリーナ公演を敢行。音楽活動の面でも常に大きな注目が寄せられている。

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