テングサの歌

紀勢本線 各駅停車 南部の次の岩代駅の
ひと気のないホームの古いベンチの上にあたしはいるの

あたしテングサ 海からとれた紫色よ もじゃもじゃ髪よ
誰か忘れた誰か捨てたの 思い出せない何も知らない

ぽかぽかお陽さまよ いい天気
誰もいないのよ なぜかしら
そりゃあ あたしにとってはどうでもいいことだけど
人間のいない地球ってきもちのいいものね

汽車の時間に汽車が来ないの 夜になっても灯りがつかない
海はみえるが船は通らず 道は見えるが車は通らず

あたしテングサ 海からとれた 海の生まれは退屈知らずよ
何万年でも何億年でも ずっとこうしてぼんやりできるの

しゅるしゅるそよ風よいいきもち
駅長さんの帽子がほら ころがっているわ
そりゃあ あたしにとってはどうでもいいことだけど
人間のいない地球って もぎたてトマトみたい

紀勢本線 各駅停車 南部の次の岩代駅の
ひと気のないホームの古いベンチの上で あたしはフワフワ
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