グランパの黒猫

過去に向かう 迷路のような
路地の途中 その店はある
~泣きたい方 どうぞお入り~
なまえの消えた 古びた扉

人生よりも 苦めの珈琲
飲み干せば…

グランパの猫が 十二時間近に
誰かのひざへと 静かに座るの
そのひとが そのひとが
その日一番 哀しいひと

ヴァンブの市の 銀の天秤
心のまま 揺れてかたむく
別れたのが 絶望なのか
出逢えただけで 幸せなのか

ワインと同じ 涙は寝かせて
おくものよ…

グランパの猫は 蝶々に恋して
窓辺を自分の 住み家と決めたの
待ちわびて 待ちわびて
年老いたこと 悔やみもせず

グランパの猫が 十二時間近に
私のひざへと 静かに座った
あのひとの あのひとの
背中見送り 別れた夜
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