親知らず子知らず

荒磯の岩かげに
苔むした地蔵が
かすむ沖をじっと見つめている

子を呼ぶ母の叫びが聞こえぬか
母を呼ぶ子のすすり泣きが聞こえぬか

旅に病む父親のもとへと
心を急がせた母と子に
北溟(ほくめい)の怒濤がグワッと爪を立て
次々に二つの悲しき命を
うばい去ったという
怒濤は何を怒ったか
その怒りを
何ゆえ悲しき母と子に向けたか

子を呼ぶ母の叫びが聞こえぬか
母を呼ぶ子のすすり泣きが聞こえぬか
悲しき人を
さらに悲しみで追いうちするを
人生というか
悲劇に向かっていどむ喜劇(もの)を運命の
神はにくむか……

かもめは啼きつつとびかい
海をもぐり波をすべる
かもめの歌の悲しさよ

じっと見つめる苔むした地蔵も
夕暮れる
親知らず子知らずの沖も
茫々(ぼうぼう)夕暮れる……
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