平熱

確か去年の今頃だった。
仕事も忙しくなくて。
散らかった部屋を片付けても、胸の中は散らかるばかりで。
傾いた夕陽に、傾いた部屋から、もうどれくらい出てないんだろう。

普通の事って難しいね。
自分の為だけの日々は、退屈だな。

借りたまんまのあの漫画が今年、映画化されるって。
「ショートヘアーのヒロインがイメージと少し違う」って、あの娘なら
そうつぶやくんだろうな。
…そんな事を思い出してる。

普通の事って難しいね。
「そうだね」って、誰が相槌を返すのかな。

古い仲間に聞いたんだ。
「あいつ、結婚する」ってさ。
過ぎた話にこだわってるのはこっちだけって知って、驚いた。
一言、ただ「おめでとう」
ただ、そう言ってやりたかったけど。

普通の事って難しいね。
毎日のように、側にいたのにな。

呼吸が重たいような。
指先が熱いような。
気のせいにしたいけれど、飲み込むのは苦しい。
思い出拗らせたまま、いつまでも胸の中、残る熱があるんだな…。
知らなかった。

平気なフリで生きていても、僕らはいつも病気だね。
触れないはずのかなしみに、僕らはいつもつぶれてしまうね。

季節が巡って、
僕らはどこかで、また出会う事があるのかな。
君のため、
ひとつでも、出来る事が欲しかったな。

冷めないで、
冷めないで、
小さな、僕の平熱。

冷めないで、
冷めないで、
小さな、僕の平熱。
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