紀ノ川

春まだ浅い 吉野路(よしのじ)を
追われてゆくのも 恋のため
降る雨のつめたさ 肩をぬらして
人目(ひとめ)しのんで 舟を漕(こ)ぐ
あなただけ おまえだけ 情けの紀ノ川

行方(ゆくえ)もしれぬ さざ波の
うわさがつらい 木(こ)の葉舟(かぶね)
身をよせて手と手を かさねあわせて
にじむ灯りに 目をぬらす
あなただけ おまえだけ 涙の紀ノ川

漂うだけの 水草(みずくさ)も
春には芽を吹く いのち草
この川の果てには きっとふたりの
愛を結べる 岸がある
あなただけ おまえだけ 情けの紀ノ川
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