勘太郎月夜唄

影か柳か 勘太郎さんか
伊那は七谷 糸ひく煙り
棄てて別れた 故郷の月に
しのぶ今宵の ほととぎす

「ありがてえ。せめて別れと人知れず、
夜道を忍んで帰って来たが、よかった。
生まれ故郷は昔のままで、俺は抱きしめてくれたんだ」

形(なり)はやくざに やつれていても
月よ見てくれ 心の錦
生れ変って 天竜の水に
うつす男の 晴れ姿

「おっお母さん………喜んでおくんなさい。勘太郎は、
きっと立派んなって帰って来ます……お達者でえッ……」

菊は栄える 葵は枯れる
桑を摘む頃 逢おうじゃないか
霧に消えゆく 一本刀
泣いて見送る 紅つつじ
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