アネモネ

今まで気にも止めなかった 最寄駅目の前にある花屋
思わず 二度見して立ち止まる 憂いのあるその横顔に

白い指先で 彩りを選び
花束を仕上げる仕草に見とれていた

名前すら知らない貴方の寂しい笑顔に 僕の心は
一瞬にしてすべて奪われてしまった
花なんて無縁だった僕の生活に その時一輪の美しい花が咲いた

引き寄せられるように 毎日
何かとそれらしい理由つけて 足しげく通う僕がいる

貴方に教わる花言葉達を 大事に 大事に集める毎日

アネモネ 僕の部屋には ガーベラ 花が溢れてゆく
フリージア 水をやる時だけが心 穏やかになる
マーガレット 時折覗く カーネーション 悲しい瞳の
その意味も知らぬままに

突然 貴方は姿を消した あれはすべて幻だったのだろうか

アドニスが流した血のように 赤く赤く染まったままの
僕の心が 涙を流す
あまたの花達が渦巻く この部屋で 記憶は乱れて
重なり 溶け合っては やがて 黒になってゆく
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