晩春歌

一足遅れで 来た春に
旅人泣かせの こぬか雨
蝶よ蝶よ 側へ来い
二人で雨宿り
水に流した十年は
口では軽い 一昔
ああ面影の 忘れな人よ
逢いたい 逢えない 戻れない
あの日の胸に

素足で地面(じべた)を 駆けてみる
裾に絡んだ 母子草
花よ花よ 凜と咲け
儚い夢の間に
悲しい程に 愛しても
越えては行けぬ 運命(さだめ)川
ああ流されて ゆらゆら揺れて
溺れて 沈んで 泥になる
名残の花よ

春とは名のみの 肌寒さ
一雨上がって 朧月
うさぎうさぎ なぜ跳ねる
淋しい宵なのに
恋しさ募り 名を呼べば
廂(ひさし)を抜ける 風の音
ああはらはらと 窓辺に散った
一片 二片 迷い花
心の花よ
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