Scene 3

電源つけると夏の高校野球
この部屋とあの場所の温度差を想像する
開けた発泡酒の缶は転がり
エアコンの室外機と共にアルコールが回る
五本目のプシュを迎えたあたりで試合終了
膝から崩れ落ちるラストバッター
グランドに落ちていく一筋の涙
そしてそれを見て流れた俺の一筋の涙
「おい、あの涙とその涙、一緒にすんなよ」
誰かの声が聞こえた 確かに
薄気味悪くなって消したテレビ
そしたら真っ暗になった画面の中に
よく知る男の顔が映った
すぐに声の主はこいつだってわかった

画面越しのそいつは
怒ってるような嗤ってるような哀れんでるような顔してた
なんだか無償に胸が騒いで
お前に何がわかるんだって怒鳴った
「俺には全部わかるよ」
ってそいつは応えた
「じゃあ何でこうなった?」
「どこで間違った?」
何度も何度も問いかけた
何度も何度も爪を突き立てた
朝日が登る頃に質問は尽きて
なおも睨み付ける俺をみてそいつは言ったんだ
「俺だけはお前を見放したりしないよ だから…」
そう言い放った瞬間にそいつは泣き崩れた
子供みたいに無様に
情けなくも目も当てられない程に だけど
いくら鈍感な俺でもそれが
本当の涙だって事だけは わかった

落とした雫の先にあったのは決意表明
なんてかっこいいもんじゃない
必死で 必死で 絞り出した
その声は その声は
「お願いです どうかお願いです
贅沢は言いません
金も 地位も 名誉もいりません
だから どうか どうか
俺の 俺だけの ドラマを下さい」
ある日の仕事終わりの帰り道
夜空を見上げた
一番星以外の星の輝きに救われた
いつか夢見たダイヤモンドの輝きとは違くとも俺は
この日々を この毎日を
愛していくんだ

怯えながらでも飛び込んで行った爪先
そこが田んぼ道 高層ビルなんであれ街は
変わらず俺に脇役を押し付けてくる
夏が終わり 秋が近づく 肌寒い季節
それでも静かに燃え上がる場所はどこだ
外の空気と胸の内側の温度差を
想像する そこから僅かでも暖を取る
容赦なく陽は沈み 昨日と同じく闇が襲い来る
誰の目にも影は差し込むその中で
何度でも狂い咲く太陽
生きていく
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