花あかり

花あかり 花あかり
古い桜の 花あかり

不知火の海辺
水俣の湯堂の
大きな桜見下ろす
小さな入り江
潮の中に
清水盛り上がり湧く
虹色のベラがさざめく
貝がつぶやく

天草の船人たちも
桜の魂に呼び寄せられて
漕ぎ入れて
ただもう夢見心地で
渚の井戸で
水をもらって花見をしたと
漕ぎ入れた舟のままで
夢見心地の花見を

花あかり 花あかり

きよ子の手はねじれ
きよ子の足はねじれ
どうやってすべくり降りたか

土の庭に
花びら散り敷く
土の庭に
花びらがきよ子を包む
きよ子が微笑む

曲がった指ですけん
花びらは拾われまっせん
ねじりつけてなあ
花もかわいそうに
抱き上げて
花びら拾うてやりましたが
その年きよ子は死にました
二十八でした

花あかり 花あかり

桜咲けば
きよ子の魂の来て
花見よるかもしれんと
線香ばあげよりましたが
思えばせつのうして
思えばせつのうして
母は桜を切りました
きよ子のたむけに

花あかり 花あかり
古い桜の 花あかり
花あかり
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