芳一受難

阿弥陀寺の 丑三つ刻
草木も皆 眠り落ちている
生ぬるい風 怪しい声
狐の火が 乱れ飛んでいる

巧みな調べ弾く お前がほしい
見事な音色出す お前がほしい

こっちへ来い
一緒に来い
恐れず来い
迷わず来い
芳一

琵琶の響く 夜の墓場
卒塔婆たちが すすり泣いている
精も根も 尽き果てんと
天を仰ぎ 撥[ばち]をかき鳴らす

優しい顔をした お前がほしい
綺麗な声をした お前がほしい

こっちへ来い
一緒に来い
恐れず来い
迷わず来い
芳一

観自在菩薩行深般若波羅蜜多時
照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子

色不異空空不異色色即是空空即是色
受想行識亦復如是舎利子是諸法空相

亡霊ども 取り憑かれた
命の灯が 風に揺れている
お釈迦様の 般若の経
体中に 墨で敷き詰める

あはれを慰める お前がほしい
無念を紛らわす お前がほしい

こっちへ来い
一緒に来い
恐れず来い
迷わず来い
芳一

羯諦羯諦波羅羯諦
波羅僧羯諦菩提薩婆訶
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