後部座席劇場

嘘つきな客を乗せた
3割増のタクシー
ただ一つ追い越せない
直径5cmの月
甲州街道 ガード見え隠れ
女は喋り続けている

「恋人が死んじゃったわ。」
「それはお気の毒なこと。」
「浴びるほど酒飲んだわ。」
「身体だけはお大事に。」
「嘘よ。本当はあたしが殺したの。」
「お客さん、からかっちゃいけないよ。」
「天気の話よかマシでしょう?」

昨日はノイローゼ気味の主婦で
明日はクノイチにでもなろうかな?
ねえ、今、あたしは誰?

顔の無い運転手に
何を話したところで
気にとめる者など無いよ
いいでしょ 金は払うのよ
「あのね…。本当はあたし淋しいの。」
「お客さん、誰だってそうですよ。」
「何ソレ。説教でもするつもり?」

いつかは本当のあたしだけを
誰かに演じられたならいいけどね
嗚呼、今、あたしは何処?

あたしが傷付かない為には
誰かになりすましてもいいでしょう
いつかは本当のあたしだけを
誰かに演じられたならいいけどね
嗚呼、今、あたしは誰?あたしは誰?
×