妻籠宿の女

背なに桜が 散りこんだ
遠い昔の 妻籠宿(つまごじゅく)だよ
わすれてんだろ かまわねえ
さむい命で すねてた俺にゃ…
愛しかったぜ きれいだったぜ
つらい世間の 海鳴りに
甘えてくれりゃ 甘えてくれりゃ 死んでもいいぜ

湊めし屋で おまえ見て
まぶた濡らした 流れ者(もん)だよ
惚れてくれとは 云うまいが
紅の糸ひく あの女だと…
逢いたかったぜ さがしたんだぜ
独り夜船の 酔いどれが
この腹きめた この腹きめた 女なんだぜ

沖が嵐を 呼ぶまえに
荷船(ふね)に身を寄せ 漕ぎだすんだよ
みだれ髪梳(す)く ほそい指
恋によごれた 女なんだと…
泣かすんじゃねえ 離れずゆくぜ
白い素足の 裾はしょりゃ
雨雲はしる 雨雲はしる 松島新地
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