杏子屋娘

うつらうつら居眠りの只中に、
遠くから音がする
しだいしだいに近付くその音に、
つられて家を出る

ひっかけた下駄の鼻緒がすり切れて、
おまけに夕立に降られちゃ、もう拍子抜けさ

取り繕った下駄を履き直して、
どうにか、家を出る
今年もまた、お見掛けできるだろか
杏子屋娘は

橙色した灯りに照らされて
うすい紅の君が振り返る

あの時はまだ あまり知らない
したたる蜜を眺めてるだけ
甘い香りと 青いかんざし
素足についた夕立の跡

困った君のそば 枕湿らす、
暑い夏の夜
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