小説家

聡明なあなたが 透明な水槽で
飼いならした私の背鰭をやさしく撫でる

染み付いた墨の匂い 綿の死んだ座布団に
筆の進まぬ夜 朦朧と瞳は乾く

『どうにも世迷言が過ぎる』『理解はし難く』嘲笑されてゆく
より現実味を帯びるならば あちらとこちらを混ぜ合わせて

躊躇するあなたに そうして頂くことが喜びと説き伏せて
ぷつぷつと浮き上がる血を見て 初めは酷く狼狽していた

白紙の格子に 溢れ出る言葉を
筆も追いつかぬままに びっしり綺麗に並べる

『理解はし難い、されどなれどどうにも目が離せない』
もう戻れないとおっしゃるなら
私の全てを どうぞ使い果たして

躊躇するあなたに そうして頂くことが喜びと説き伏せて
泡を吹き痙攣する目に 感謝と涙で嗚咽していた

ドーパミンの海を泳いで 見せたい世界をしらしめていて
もう夢を見失わぬよう このままどうか側にいさせて
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