物の怪草子

誰(た)そ彼時(かれどき)より蠢(をごめ)き初む妖(あやかし)
百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)に逢ひぬれば命堪へず おどろおどろしや

日に異(け)に月影増せば
我が眼(まなこ)はいと神妙(しんべう)なり

見えぬ化生を見顕(みあらは)せば
忽(たちま)ちに叢(むら)は押し掛くる
わうじゃくたる敵(かたき)末(すゑ)は更なり
いで来たれ 其れ其れ 見参せむ

咲きすさびたる待宵草(まつよひぐさ)よ 共に月夜見(つくよみ)の光を浴み
良夜にすべし 十五夜の湛(たた)はしかる我に挑むべき事かは

妖刀玉兎を抜きて殊(こと)と討ち放す 妖の天下(てんが)など夢の夢の夢
臍(ほぞ)を噛め

にはかに雲隠(がく)る頃
淵に無慚(むざん)なる牛鬼(うしおに)迫(せ)む

闇の現 気色(けしき)覚ゆ
打ち延(は)へて毒霧の迷ひ
雲返す風は我に与(くみ)す
大将軍(だいしゃうぐん)よ やうやうござんなれ

此の剣太刀(つるぎたち)磨ぎし心は世界へと天(あも)降りし我が宝
風月の音に舞い出づ 我が世に斬れぬものやはありく

咲きすさびたる待宵草よ 共に月夜見の光を浴み
良夜にすべし 十五夜の湛はしかる我に挑むべき事かは

物の怪草子は打ち続く
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