螢火

吹き澄ましたる幽玄の横笛は夜さりに鳴り響(とよ)む
稚(いとけな)き様 鋭(すすど)し牛若は太刀を構へたり

弁慶よ 千の太刀奪(ば)ひ取ること叶わんや

巡り会ひける縁(えに) 後の世まで語り継がるる名を上げ
果(おほ)せつるものならば懸命に生く我が代を悔いず

時は流れて草木も靡(なび)くほど心太く生(お)ひ行く
憤(いきどお)り止まぬ兄(このかみ)は我に悋気(りんき)し遣らひけり

燿(かがよ)ふ夢がましき短夜(みじかよ) 源氏螢(ほたる)や

この軍(いくさ) 然てまた剛の者を見果てむとこそ思へど
闘諍(とうじゃう)を欲りし定め 我が命(めい)をもやがて尽きなむ

巡り会ひける縁 後の世まで語り継がるる名を上げ
果せつるものならば懸命に生く我が代を悔いず
螢火消(き)ゆ
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