たけくらべ

お歯ぐろ溝(どぶ)に 燈火(ともしび)うつる
巷(ちまた)は染まる 薄墨の色
下駄を鳴らして 表の道を
幼なじみの 人が往く
好きとも言えずに ただ物陰で
そっと見送る 恋ごころ

祭囃子(ばやし)が 簾(すだれ)を抜ける
浮かれて人は 輿(みこし)を囲む
白い浴衣に 朱塗りの木履(ぽっくり)
帯は胸高 薄化粧
眼と眼で交した 挨拶さえも
人が気になる 恋ごころ

身を切るような 霜降る朝に
格子の外に 水仙の花
やがて売られて往く花街へ
廓(くるわ)づとめの日も近い
なんにも告げずに 遠くへ行った
暗い路地裏 恋ごころ
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