あいつ

雪の中一人の男が
山に帰っていった
ただそれだけの話じゃないか
あわただしい季節の中で
花束投げた、あの娘の言葉が
こだまして帰ってくるけど
雪どけ水の音に消されて
また静けさがおとずれる

だからもう忘れちまえよ
あんなやつのことは
こんなかわいい人を残して
一人でゆくなんて
あいつがたとえ 想い出ひとつ
何も残さなかったのは
あいつにすれば せいいっぱいの
愛だったんだね

春が来たら 去年と同じように
また山でむかえよう
それまでにきっとあいつの
得意だった
歌をおぼえているから
×