還る

震えてる
あの風が 唇が
千切れるほど固く組んだこの指が
明け方の彗星がその一生を終える声が

怯えてる
あの星が この羽が
鎖を解かれてよろめくこの足が
消えかけた火の身を切るような断末魔が

覚えてる
君の名を 君の目を
僕がもといた場所を
君と出会ったあのポプラ並木を

君に会えるならば、この眼が灼けたって構わない
虹も、空も こぐま座の尾の煌きも
不死鳥のように燃えるオーロラも
もういらない もう目を閉じない
二度と祈らない 奇蹟など願いはしない
また会おう あの木洩れ陽の下で

満ち足りてる
あの鳥が 潮騒が
地平線で砕け散った星屑が
螺鈿の匣にそれを拾い集める花嫁が

抱かれてる
この森に 静寂に
極北の十字が描く正円に
永久に眠れる氷瀑のイコノスタシスに

覚えてる
君の色 君の香りを
僕が還るべき場所を
君がかつて海だったことを

君に会えるならば、この手が裂けたって構わない
愛も 歓びも 二六〇章の詩も
E線を伝うこの涙も
もういらない もう怖がらない
二度と戻らない 振り返ったりなどしない
また会おう あの約束の場所で
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