老いぼれドラマー

君のリズムは古くさいよと
バンド仲間は嘲笑うけど
年齢(とし)はとってもジャズが生甲斐
俺は場末の老いぼれドラマー
黒いメガネにあご鬚つけて
かぶるかつらはカーリーヘアー
上はTシャツ下はGパン
ちょいと見た目はヤングなドラマー
仕事がはねりゃ 家路を急ぐ
電話ボックスに
かくれて衣装の早替り
メガネ かつら ヒゲをはずせば
だぶついたお腹 うすくなった髪
よれよれの背広 古い靴
醜い中年

パパは老けてる若さがないと
朝の食事をしている時に
バカにしたよに娘が笑う
俺は黙ってコーヒーすする
電車に揺られ会社について
日がな一日新聞よんで
出世コースをとうにはずれた
俺はいわゆる窓際族さ
会社を終えて ひとりになると
ホテルのトイレで
いそいそ衣装の早替り
メガネ かつら ヒゲをつけると
心が浮きたつ 足どりも軽い
ドラムをたたけば パラパラと
拍手もあるのさ

あなた素敵ねデイトしてよと
帰りまぎわの店の出口で
俺の背中を誰かがたたく
若い女が背中をたたく
見れば女は俺の娘だ
俺は全身ひや汗かいて
逃げて走った夜の盛り場
指名手配の犯人みたい
娘をまいて ため息ついて
暗い路地裏に
かくれて衣装の早替り
メガネ かつら ヒゲをはずせば
道のむこうから やって来る娘
肩を抱きよせて 俺は言う
一緒に帰ろうよ
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