ハルピン一九四五年

あの日から ハルピンは消えた
あの日から 満州も消えた
幾年(いくとせ) 時はうつれど
忘れ得ぬ 幻のふるさとよ

私の死に場所は あの街だろう
私が眠るのも あの地(つち)だろう
青空に抱かれて キラキラと輝く
白い街ハルピン 幼い夢のあと

街に流れる ロシアの匂い
広場の花壇に 咲く花リラよ
辻馬車が行くよ
蹄(ひづめ)を鳴らして
キタイスカヤ街 モストワヤ街

プラタナスの葉 黄ばんできたら
それは厳しい 冬の訪れ
息もとぎれる 眉毛も凍る
指もちぎれる 涙も割れる
あの冬の寒さ あの愛の中を
シューバーを着込んで 歩いてみたい

私の出発は あの街だった
私の幕切れも あの地だろう
父母とくらした ペチカのある家よ
白い街ハルピン 幼い夢のあと

凍てつく松花江(スンガリー)
氷の上に
鈴の音のこして
消えゆく橇(そり)よ
あの冬の寒さ あの雪をつかみ
涙をながして 歩いてみたい
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