白い靴

あいつは髪の毛 振り乱し
涙をいっぱい 目にためて
棄てたら死ぬわと 言いながら
両手で背広に すがりつく
その手を無理矢理 ほどいて逃げだすぼく
真昼の路上を 突然駆けだすぼく
人波かきわけ 小石につまずくぼく
泥棒みたいに 走って汗かくぼく
なんという別れ方
あいつはスカート ハイヒール
追いつくはずなどないけれど
時々うしろを振りむけば
それでも泣き泣き 追って来る

そのうち雨まで 降りだして
ひときわざわつく 街角で
あいつはやにわに 靴を脱ぎ
両手にぶらさげ 駆けて来る
横断歩道を 信号無視するぼく
タクシー拾って あわてて乗り込むぼく
どこでもいいから 走れと叫んだぼく
ちぎれたボタンを 今さら気にするぼく
なんという別れ方
曇ったガラスを 手でぬぐい
あいつを探せば道ばたに
恨みの目つきで白い靴
両手にぶらさげ 立っていた
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