死んでから

死んでからもうずいぶんたつ
痛かった思い出が死後はむず痒くなった
私という存在が何かに紛れてゆくが
その何かを呼びたくとも
言葉はもう意味をなさない
見えてはいないのに青空が身近だ

生きていた頃はなにかと騒がしかったが
いまは静かになった
前は聞こえなかった音が聞こえる
どこか遠くでオーケストラが調弦している
と思ったらそれは虹の音だった

私の骨は粉になったらしい
それを海に撒き散らしたらしい
私の好みでは草原でもよかったのだが
老いては子に従えと格言は言う

これから何が起きるのか
もう何も起こらないのか
もうちょっと死んでみないと分からない

私は良い人間だっただろうか
もうおそいかもしれないが考えてしまう

死んでからも魂は忙しい
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