目の下

何も無いけどここへ
外の空気を吸いに
どうということもないよくあるお出かけ

影、雲、木の幹、傘、あたる雨の粒、数
大きいだけでときめき

交わす言葉はひとつだけでも
枝葉をつけては伸びて
そうだったら、そうかも、そうでありますように

声、足音、衣ずれ、冷蔵庫の開け閉め
大きいだけで怖い

目の下にくすんだ赤、黒、乾いた白
拭うのもちょっとためらわれるくらい
話す素振りもない
持っておけないのに離しがたい
ひとり噛み締める落ち着かなさのにぶい色
ひとり噛み締めたい楽しさを守るにぶい色
ひとり噛み締めることだけに似合うにぶい色

涙の出るほど花や陽がきれい
こんなことあるんだね、本当にきれい
いきなり飛び立ち戻らない鳩の群
そろそろ閉店の駐車場を出て

もうすこし遠回り
花屋の旗たおれてそれきり
月の目だけでは飽き足らない
手に余る目を欲しがる空騒ぎ

目の下にくすんだ赤、黒、乾いた白
拭うのもちょっとためらわれるくらい
歪む呼吸もない口元を通って下へ下へ
流れて落ちるだけで長い長い手紙のよう

直す余地もない襟を
直すふりも空々しい
拭うのをずっとためらって
目の下にくすんだ赤、黒、乾いた白
ひとり噛み締めたい楽しみを守るにぶい色
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