アメジスト

君に似合う指輪を探していた
少し小さめのものがよかった
どこに行っても 誰と会ってても
くすまない 冷たい銀色を

ショーケースに香水が並んでいた
君が好きな匂いを知らなかった
銀座の街をスニーカーで歩いていた
似合わないな ここにも君にも

アメジストの瞳が揺れている
怒りの赤でも 悲しみの青でもない

「私にはもう、何も無いの」
諦めたように笑う 君を本気にさせたかった

君が好きな 紫色の花束
花屋の片隅でくたびれていた
陽の光に選ばれない姿が
僕のようで 思わず 手に取った

東京の雨は やけに冷たかった
群衆の眼は 酷く凍てついていた
こんな夜から君を守るのが
僕がさす 傘ならいいのに

アメジストの瞳が濡れている
怒りの赤と 悲しみの青を混ぜ込んで

「誰でも 良かったのよ別に」
なら僕が幸せに なんて、言えなかった

ああ わかっていたんだ
その指を飾るのは
僕じゃないんだ、君には
正しい愛が似合うから

じゃあ 終わりにするね
でもね 忘れないで
君が笑ってくれる、それだけで
この世の誰よりも幸せだったよ

アメジストの指輪は買わなかった
この花束も どこかに捨ててしまおう

雨に濡れた紫陽花が 月に照らされて
僕は何故か夢中で 駆け出した

負け犬の 遠吠えでも構わないと
君に全て伝えるため ただ走った

汗だくの僕をそっと 抱きしめて
手を伸ばして頭を撫でて少し背伸びをして
静かなキスをした君が選んだ
僕への言葉は「ありがとう」
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