生きている

揺れている 陽炎も
泣いている 君の横顔も
暮れている 黄昏も
触れているだけの 温もりも

立ちこめる 雨雲と
空をゆく 白い旅客機と
耳をつく 17(ご)時のサイレンと
列をなす 子供等の声

生きている なぜに生きている
そのことさえ 時は置き去りにして
生きている 今も生きている
その幻にだけ 愛は出づる
生きている

鳴り響く 銃声と
逃げ惑う 村の老人と
立ち尽くす 一人少年と
跪く 兵(つわもの)の夢

生きている ゆえに生きている
死ぬ理由さえ 夜ごと有耶無耶にして
生きている 尚も生きている
その束の間に雨 花は芽吹く

迫り来る 悲しみを
僅かに説き伏せし 出会いの綾よ

生きている なぜに生きている
こと自由まで 僕はおざなりにして
生きている 永遠を生きている
その幻にだけ 愛は出づる
生きている
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