切り花

宵の花屋の眩しさに戸惑う
足早に過ぎる人 小糠雨の中を
知っているのか 花びらの噴くわけを
真水を啜りながら赤く映るわけを

濡れるガラスの向こうに
ひしめき生きる切り花
実をなし花をなせるもの
実のない花 花のない実
実らず咲かずして地に還る花の名は何?
と問えば

人はひとりの夕映えを握りしめる
吊り革を掴む手のもう片方の手に

軋む車窓の向こうに
うつむき揺れる切り花
実をなし花をなせるもの
実のない花 花のない実
実らず咲かずして地に還る花の名は何?
と問えば
花の名は何?
と問えば

笑いさざめく子供らが駆けてゆく
水溜まり跨ぐ人
生い繁る 傘の森
修羅の生(む)せる屋根よ
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